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『コーヒーが飲めるようになってしまったよ』


変な三角形の紙に黒い粉を二杯、やかんからお湯を注ぐ、ムクムク膨らむ黒い粉 立ち込める湯気と独特の匂い ガラスの容器に溜まる黒い水。
それは小さい頃からずっと身近にあって だけど遠かった ずっと あなたのものじゃないよ、という顔をしていた。職員室を開けた瞬間とか、喫煙室を出てきた人の身体とか、人と行くカフェとか、午後3時のお台所とか。わたしは、同じ場所にいつつ たぶん柔らかいタオルケットみたいなもので包まれて端っこに置かれていたように思う 託児所みたいに

17歳、社会とのラストお手手つなぎ期 おまえは18歳だよ選挙へ行けの時限爆弾的タイムリミットが近づくも ちゃらんぽらんなわたくしは 喫茶店ではフルーツヨーグルトかパフェかあんみつかクリームソーダ、カフェでは 冷たくて甘いカフェオレ それか 生クリームの乗ったココア、ファミレスも然り。周りには何も言われないし それしか頼まないし頼めないしそれでいいと思っていた、その時でした


「にっきちゃんもコーヒー飲む?」


唖然としました。それなのに わたしは 咄嗟に 日常から飲んでいるように ニコニコと、「はい」と 答えました

ただそれだけです 起こったことは 本当にそれだけなのです ただの 何気ない 普通のこと

そうしてわたしはお砂糖の入らない コップ一杯のコーヒーを飲み切りました 苦くて温かくて いつもの匂いで、ちょっぴり おいしい、と思いました


でもね、それ以降 こころの真ん中に茶色いシミがこびりついて消えない ミルクが負けて薄まらない

わたしはひとつ大人になったみたい それは恐ろしくて カフェオレしか飲めなくなりたいなって100回くらい思いました 炭酸とかも飲めないで すきな飲み物カルピスになればよかったよ。

わたしの周りの大人の誰かが前
「みんな無理して慣れていくんだよ コーヒーとかお酒とか」
と言っていたのを思い出したけれど それが誰だかは思い出せない もしかしたら大人という陰だったのかもしれないな〜なんて湯気のごとくぼんやりと考えた


コーヒーが飲めないことに甘えていたの 多分一生甘えていたかった

次に乗り越えてしまうのは  恋愛?それとも


安住日希


#はらわたの着色 #ミスiD2019 #ミスiD #コーヒー

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