ショート・ショート「桜」
桜
ずっと眠っています。眠ったふりをしています。あっ。ひかった、パチっと何かが光りました。瞼の内側が眩しい。暗いけど、なんだか外は眩しい、というやつなのかもしれない。
多分今は夜です。わたしはずっと眠っています。眠っているけどわかります。朝になると瞼が少しずつピンクになって、白くなって、白い時間がずーと続いたあとに、だんだんオレンジ色というやつになって、紫が来て、また、暗くなります。眠っています。
わかります。隣はもう目を覚ましたみたい。ぱちぱち。白いまばゆいがきっと、わたしの周りにふえてゆく。
白いまばゆいは一瞬で、わたしたちはひとひらずつ、落ちたり、鳥、に、つつかれたり、して、ぽとん、とおちます。少しこわいけど、たまにそれは誰か、かわいいひとの髪飾りにしてもらえたりして、それはちょっとたのしみです。
わたしをみて心が震えること、人間はあるみたいです。花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ、と、誰かが言った、らしいです。春雷がわたしたちを襲って、散っても、それは、綺麗かもしれない。それでよかったです、さよならをします。さよなら。この地球に落ちて養分になります、さよなら。それで良いの。良いのです。
わたしは桜です。一輪のちっぽけな、たくさんの中のひとつです。あっ、もう、春がそこにきてる、目を覚ます声がする。出かけなきゃ、目覚めなきゃ。こわいけれど、目を開くじゅんびをします。一枚ずつ、ひらいて 弾けるみたいに、誰もみてない明け方に、わたしは咲きます。だから、どうか、見上げてみてください。
わたしは桜です。一輪のちっぽけな桜です。だれかに見上げてもらえることをゆめみて、咲きます。ゆきます。ぱち、ぱち、ぱち。
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