見出し画像

「ここちゃん」#1



#1「ここちゃん」


ここちゃんはよくわからないし、気難しい。



名前をこころと名乗る彼女は、近所の行きつけの喫茶にいつも居て、気がつくと僕の傍らに居た。



「血液型は」
「しらない」
「何座ですか」
「蟹座か乙女座」
「蟹座と乙女座はとっても離れているけど」
「そうだね」
「じゃあ好きな食べ物は」
「あったかいぎゅうにゅう」



ここちゃんとのはじめての会話はこれだけだった。窓際の席でプリンをほじくりながら、年齢も出身も居住地も分からない彼女に出来た精一杯の質問で判ったのは「あったかいぎゅうにゅう」が好きだということだけ。気だるそうにするからこれ以上は聞けなかった。


推測、僕と同い年くらいだと思うけれど、骨格は小学生児童くらいの肩幅しか無いし、走り出したら見失ってしまうような、嘘みたいな薄っぺらさがある。釣り上がった不思議なかたちの瞳をキョロキョロさせながら、ほじくったせいでカラメル部分がドーナツみたいになったプリンを、スプーンの裏側で恨めしそうに叩いている。彼女なりに、食べきれなかったことを後悔しているのだと推測した。

 
そのなりはあまりにも猫のようなので、僕は彼女を、勝手に、野良猫の生まれ変わりかな、と思うことにした。それと、居なくならないでほしいので、勝手に、“ここちゃん”とあだ名をつけた。



#ショートショート  

よろしければサポートお願いします 泣いてよろこびます