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【本】『食べごしらえおままごと』石牟礼道子

 石牟礼道子さんの『食べごしらえおままごと』は、四季折々の食べごしらえを通して、家族や周りの人々のエピソード、季節の行事、生活の知恵、そしてふるさとの風景がいきいきと伝わってくる。

 田舎暮らしの中で、小さな石牟礼さんが大人たちに混じっておままごとをするように、食べごしらえを手伝う姿が可愛らしく、またそれをおおらかに見まもる周囲の人々の姿が微笑ましい。
季節ごとの食べ物、素朴な昔ながらの作り方、それは暮らしの知恵でもある。
ここに登場する料理たちはいたってシンプルであるし、これこそ伝承していかねばならないものではないのか?

 ほれぼれするのが冒頭に登場するお父さん、白石亀太郎である。
貧乏であっても人間的なプライドを持ち続け、妻の親にも礼を尽くす。人並みを越えた剛直さと情の深さを持ち合わせた方だった。
何事にも創意工夫をして廃材で家を作り、食べごしらえ、繕いもの、洗濯まで。
ひな祭りの季節にはお雛様をも作ってくれる器用な方だった。
このお父さんが作る「ぶえんずし」が美味しそうだった。

 人々の熊本弁も心地よく、読みながら山を感じ海を見て、風に吹かれた。
 暮らす人々の息づかいを感じ、美味しい食べ物に五感が刺激される。
 こんなふうに情景が目に浮かぶのはやはり石牟礼道子さんの文章の巧みさだろう。


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