『帰ってきた なんしょんな！俺』（１） なんしょんな！コロナ ／川人憲治郎

※全て無料でも読めますが、今後の活動費に当てさせて頂きますので、よろしければご購入もいただけると嬉しいです。

　海の向こうの赤い国からやってきた新型コロナウイルスによって、アニメ業界もご多分に漏れず自粛を余儀なくされ、環境に合わせて変化しながら作品作りを続けています。

　大きく変わったのは音響ですね。それまでは登場人物が多いタイトルだと、30名超の声優さんが録音ブースに入って三密状態で収録していたのですが（ブース内に立てられた複数本のマイクの前にセリフの順番に合わせて声優さんが入れ替わり立ち替わり声を吹き込んでいく光景をテレビや雑誌で目にしたことがある方も多いのではないでしょうか）、いまではマイク本数を減らして声優さんの数も多くて２、３人に絞って収録しています。声優さんの希望があれば一人収録もあるって聞きました。

　また、通例となっていた音声収録前後の声優さんの挨拶は無しとなり、マネージャーさんは来ないで声優さんだけで音響スタジオに足を運んでいますね。

　そしてダビング（映像に合わせて、セリフと音楽・効果音を合体させる作業）は仮MIXした音源をデータで送ってもらい、それを監督、スタッフが聴いて修正箇所をメールまたはSNSで音響監督に伝えて修正してもらう。修正された音源をまた送ってもらって確認する、といったリモートダビングが定着したようです。ただこれは私が知っている音響監督から聞いた話なので、他の音響制作会社では違うスタイルで収録しているかもしれません。

　テレビアニメに関しては新番組の放送が延期になったり、長期放送中の作品で新作を作れなくて傑作選を放送するといったケースが増えました。劇場作品については『ドラえもん』が５ヶ月ずれて8月公開になり、『名探偵コナン』は一年遅れて2021年の公開になり、『クレヨンしんちゃん』は未だ公開日が決まっていないようです。それ以外にも公開時期が見えないタイトルがありますね。公開がずれずれ状態で、各映画会社や関係各社は今も公開調整に追われている大変な状況だと思います。

　また、アニメのイベント関連も中止になってしまったので、物販の年間売上げ目標を揚げていた会社は売上減で大変な状態です。さずがに8月以降は大規模なイベント自粛は解除されそうですが（コミケに関しては東京五輪・パラリンピックの延期に伴った会場使用の問題から、冬の開催も延期が決定したようですね）、それでも人数制限がかかるのでしょうから、焼け石に水のように思います。

　アニメ制作会社は全面的に会社をクローズしてテレワークにしているところもあれば、輪番制で出社していたり、時短で業務を行っていたりで、会社によって様々な対応をしています。
　ただ海外（主に韓国、中国）に頼っていた作業が実際に渡航できなくなったことで、物理的に素材のやり取りができなくて、代わりにデータで素材をやり取りするために制作の素材スキャン作業負担がまるまる増えました。オールデジタルだと問題ないんですけどね（動画はデジタル作画も増えましたが、動画の元となる原画作業のデジタル化が進んでいるとは言えまだまだ紙での作業が多いですからね）。

　シナリオ会議もオンラインでやっていますが、やはり一つのテーブルにスタッフが集まって喧々諤々意見をかわしてお互いの熱を感じるのが作っている感があっていいんですけどね。またオンライン会議でも参加したスタッフが自由に意見を述べられるように議事録は取らないのですよ、なんてことはない。民間は政府と違ってちゃんと議事録とってますから(笑)

　今後もテレワークが出来るポジションは続けていけばいいと思います。行き帰りの満員電車に揺られないですむのは有難いですもんね。

　そして、近頃は前にも増してアニメ映像によるのTVCMが増えた気がします。
　最近だとauの桃太郎、金太郎、浦島太郎の三太郎のTVCMがアニメになりましたね。
　役者とスタッフが一堂に会して、密な状態で制作しないですむからアニメになったのか、それとも出演者がスキャンダルを起こしてもアニメは放送できると判断したのかな。
　制作側が意図して作らないとアニメのキャラクターは、幸せになる白い粉を吸わないし、打たないし、多目的トイレの中でチョメチョメなんてできませんから、安心は安心ですね(笑)。

【 川人憲治郎（かわんど けんじろう） プロフィール 】
　1961年4月1日生まれ。香川県丸亀市出身。
　株式会社グループ・タック、株式会社サテライトなどでアニメーションプロデューサーを歴任。
　ふしぎの海のナディア（1990年 - 1991年）、ヤダモン（1992年 - 1993年）、グラップラー刃牙（2001年1月 - 12月）、FAIRY TAIL（2009年 - 2013年）など、プロデュース作品多数。
　現在は、株式会社ディオメディア（http://www.diomedea.co.jp）にて制作部本部長を務める。無類の愛犬家。

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