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変態的美術観賞 第二話

※前回の続きの物語になっています。


さて、私には美術館でのもう一つの密かな楽しみがある。

30歳の女が週末の美術館通いで
飲み会にも行かない、

出逢いがないんじゃないか、と
人に思われるかもしれないが


意外にもある。

私が美術館に行く時間帯は主に老人ばかりだ。

老人達に混ざり合って絵を観賞していると
自分も老人になったかの様な錯覚に陥る。


だかそんな日ばかりではない。

稀に老人達の中で一際輝く姿を見かける。

背が高く、Tシャツにデニムというシンプルなファッションだか鍛えられた身体のおかげかとてもオシャレに着こなせている。

年は私と同じくらいだろうか、、、

私好みの素敵な男性だ。

彼を見ると
老いていた心も
いつもの30歳の私に引き戻される。

いや、むしろティーンエイジャーの時まで
引き戻される。


毎週末会う訳ではないが
その男性と趣味が合うのか、

期間限定で開催されている美術展で
よく会う。


私は彼を展内で見ると、胸がドキドキする

もう絵どころではないが、
限定期間だ

しっかり見ておこう。

いつもの様に自己開発の『大人の楽しみ方』

を実行していた。

その日はコンタクトを切らしていて眼鏡で見る予定だったが、
なんと眼鏡を忘れてしまった。

致命的。


終わったわ。と思った。
だけど今週末までの展示だ、

何がなんでも見よう。


私は絵とキスをするんじゃないかというぐらい
顔を近づけて見ていた。


一つの絵にかなり集中し、いつもの様に
妄想を始める。

そして一通り妄想し終わったら
イヤフォンガイドで答え合わせ。


今回の絵は見事に的中していて
"やったっ"と
小さくガッツポーズをし、絵から顔を離した。


その時



上体を元に戻した瞬間

何とあの素敵な彼の横顔との距離が
10センチもなかった。


かなり近い、、。


私は顔面真っ赤になりその場から動けなかった。


普段どんな男性の前でも物応じない私が

パニックだ。

どうしよどうしよう。


三十路女が少女みたく
舞い上がっている。


その時



『目が悪いんですか?よかったらこれ
使って下さい』


と彼がオペラグラスを差し出してくれた。

私は一瞬の出来事に頭が真っ白になった。

『えっ、あ、ありがとうございます。』

私は何が起きているかもわからないまま返事をし、

それを受け取ると


彼はニコッと微笑んで次の絵の方に
進んでいった。


私は固まったまま
その場にどれくらい居たか分からない。

お婆さんに
『ちょっと失礼』

と言われた声で
はっと我に帰った。



(何と嬉しい出来事なの!!)

私の心臓はお祭り騒ぎだ。


私はオペラグラスをギュッとしっかり握り、
気持ちを落ち着かせてから

絵の鑑賞に戻った。


だが彼は
私がこんな変態的な絵の鑑賞の仕方をしているなんて
思わないだろう。

そう思うとだんだん恥ずかしく、

なんだかこのオペラグラスに申し訳なくなってきた。



(やっぱりすぐに返そう)


そう思って急いで彼を探しに行った。

出口付近まで探したが


その場にはもう彼の姿はなかった。



つづく

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