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「兼業小説家志望」(仮題) 6コラボ小説
前回のおはなし
![](https://assets.st-note.com/img/1717087670332-WXKJgeL1cU.png)
ガヤガヤと慌ただしく右往左往する人。そして、乱雑に置かれた書類の束。電話している声が、あちらこちらから聞こえてくる。
「ちょっとこっち来い」
書類の山に囲まれたデスクから、手が見えた。
デスクから呼ばれた男は、方々から聞こえる声であろう雑音をかき分けて、デスクに向った。
「お呼びでしょうか?編集局長」
「お前、今、何をやってる?」
「仕事です」
男の口数はいつも少ない。編集局長はそんな彼のことを知っているので、 ふぅとため息を吐いて、編集局長は書類の束を机に投げた。
「お前が渡邊を尊敬していたのは知っている。だけどな、この件からは手を引くんだ」
編集局長は、そう言って椅子ごと身体を窓に向けた。男は立ったまま何も返事を返そうとはしなかった。
「渡邊はオレと同期でな。あいつは、最後までジャーナリストを貫いた同期の誇りだよ」
周りの雑音が消えたように男は感じた。
「自殺するなんて思えないのですが」
男の顔は確たるものを内に秘めているようだった。説明をするかのように淡々と話を続けた。
「渡邊さんは、あの疑獄事件に生涯を費やしていました。あの日、渡邊さんはあの『悪しからず』を書いたと思われる亀井さんに会いに行きました。夜、亀井さんに私は会ってその話を聞いていました。しかし、渡邊さんは、そのままビルから飛び降り…」
男は編集局長の手のひらに制されて、中断した。
「渡邊は自殺だ。現場には書き置きも残されている。奥さんに先立たれてな、寂しかったんだろう」
「…」
「いいから早川。お前はこの件から手を引くんだ。これは命令だ」
編集局長は窓の外に視線を向けたまま、腕を組んで、じっと椅子に座った。
「かしこまりました」
早川はいつものボーイの口調で軽く頭を下げて、編集局長の元をすっと立ち去った。
渡邊は夜中に渦巻ビルの屋上から転落した。書き置きが残されていたため、警察は事故や事件との因果関係は無いと判断し、自殺で処理された。
この件は、どこの紙面にも掲載されることはなかった。渡邊が所属していた現代討論社でさえも。
独り身の渡邊の葬儀はしめやかに執り行なわれた。渡邊という存在自体、この世に居なかったのではないかと思わせるようだった。
足早に自席に戻る。あの草野球から1週間が経ったのだが、亀井が突然、会社に来なくなった。そのおかげで、吉井の業務量は一気に増した。
先ほど、課長のデスクに呼ばれて、亀井がやっていた案件をどう処理するか聞かれた。同期ではあるが、あいつがやっていた仕事の全てを把握しているわけじゃあない。吉井は右手にスマホを持ちながら、電話に応答しない履歴を眺めていた。
「亀井の家に直接行くか」
吉井は、スマホを見ながら、呟いた。
吉井は仕事に追われていて、この1週間は恵理子とも逢う時間を作れなかった。
草野球の日以来、彼女の顔を見ていないが、メッセージのやり取りはしているので、お互い大人だ。大丈夫だろう。
亀井は入社当時から住んでいる場所が変わっていない。独り身だというのに、同じ場所に住み続ける理由が吉井には分からなかった。
吉井は、家賃が高くても、会社の近くに住むようにしている。通勤の時間が無駄だと思うため、より仕事に集中するためにも、と思うのだが。
ここにはオートロックはないので、亀井の部屋の前まで行ってチャイムを鳴らした。
古いチャイム音が鳴って、ドアがガシャッと開いた。
そこには、無精ひげのままの亀井が立っていた。
「なんだ吉井か」
少し目に精彩が無いように吉井は見えた。
「課長に聞いたんだが、会社を辞めるのか」
亀井は頭を掻きながら、面倒くさそうに頷き、ゆっくりと答えた。
「小説に専念したいんだ。昔からの夢だったんだよ」
「しかし、生活はどうするんだ?小説で食べていけるかどうかは分からんが、そう簡単でもないだろう?」
その問いに、亀井は答えなかった。仕事の話をしたかったのだが、とてもそんな状況ではないと思った。だから「もし、何かこまったら、いつでも連絡してくれ。いつまでも、お前はオレのライバルだ」と言った。
それで良かったのか、正直分からないが、これでいいのだと思うようにした。
亀井の家を後にして、外に出た。まだ、お昼だ。太陽が燦燦と輝いている。さて、会社に戻るとするか。
その時、1人の男が近寄ってきた。
「吉井さん…ですよね?」
スーツを着こなしてはいるが、まだ若い、おそらく。少し警戒しながら、返答をした。
「どこかでお会いしたことがありましたっけ?」
男は、名刺を差し出してきた。
現代討論社…早川…
「現代討論社の渡邊はご存知ですよね。吉井さんに少しお話をお伺いしたいのです。吉井さんと恵理子さんと、そして、亀井さんの」
少し汗ばむ。季節は梅雨に入り、夏に向っていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1719062847998-nouKcYVO2F.png)
私には色々な選択肢がありました。
色々考えて、私はこの選択肢を取りました。
本小説は、sanngoさんと歩行者bさんのおかげでとても深みのあるサスペンスに仕上がっています。
私がこのお二人に参加させて頂いて、私の能力が著しく低いので、果たして良かったのだろうか?とも感じています💦
ただ、最後までやり切りたい…その想いだけは、お二人と変わらないと信じております!!
歩行者bさん、後はよろしくお願い申し上げます🙇💕
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