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完結「兼業小説家志望」(仮題) コラボ小説 真理子編

前回のお話

 あちら側の人間は、「真理子」だ。

 亀井はそう結論づけた。この小説を潰されてしまっては、みんなの命が危ない。その前に、止めないといけない。

 まだ、昼間だ。真理子は出勤前で家にいるかもしれないが、自宅は分からない。亀井はすぐに早川と会った喫茶店を出て、タクシーを拾い、真理子の店へ急ぎ向かった。

 真理子の店に着くと、ボーイの田中が開店準備をしていた。

「田中さん、真理ちゃんはまだ家にいる?」
 亀井の形相に驚いた田中ではあったが、まだ出勤していない旨を伝えた。
「じゃあ、家。真理ちゃんの家を教えてくれ」
 しかし、田中は首を横に振った。教えることは出来ない、当たり前だ。

「このままでは、真理ちゃんに悪しからずの真相を消されてしまう」
 亀井は、焦った。真理子は、亀井と早川に親身に寄りそうような振りをして、近づいてきたに違いない。そして、情報を取って…。そうすると、早川が危ない。

 亀井は、真理子の店をすぐに出て、現代討論社へ急ぎ向かった。

「早川さん、早川さんは戻って来られていますか」
 現代討論社の受付で、亀井は早口で伝えた。
「早川ですか?確認いたしますので、少々お待ちください」
 内線電話で確認して、受話器を置いた。
「申し訳ございませんが、早川は社内に戻って来ていないようです」

 「仕方がない」そう言って、亀井は真理子が出勤するまで、時間を潰すことにした。
 ここで、時間を掛けてしまってもいいのだろうか。焦る気持ちを抑えながら、夜になるまで待った。

 夕方に差し掛かろうとした時、電話が鳴った。真理子からの着信だった。
「亀ちゃん、どうしたの。血相を変えて店に来たって、先ほど田中さんから聞いたわ」
「真理ちゃん、ちょっと話があるんだけれど、店出てこれないかな」
「昨日の件ね。分かった。どこに行けばいいの」
「真理ちゃんの店の近くの公園でもいいかな」
「分かった。すぐそちらに向かうわね」

 タクシーを呼ぶために、大通りに出た。時間を使い過ぎてしまったかもしれない。その時、後ろから声をかけられた。

「亀井さん、ですよね」
 亀井は後ろを振りかった。3人のスーツを着た男がいた。
「私は、こういう者です」そう言って、亀井を呼び止めた男の1人は、警察手帳を見せて言った。
「早川さんと吉井さんの殺害事件について、お聴きしたいことがあります。ご同行いただけますか」

 早川と吉井が殺害されただと。遅かった。真理子を待つのに時間を使い過ぎたようだった。
 亀井は、男たちの制止を振り切って、近くのタクシーに乗り込み、真理子の店の行き先を告げた。

 真理子の店の近くで降りた亀井は、待ち合わせの公園へ急いで向かった。
辺りはだいぶ暗くなっていたが、街灯の下にあるベンチに1人座っている姿をみた。あの長い髪は真理子だ。そう確信して、急いでベンチへと向かった。

「真理ちゃん!なぜだ、なぜなんだ?」
 亀井は、座っている真理子に近づいた。息をしていなかった。

 そこへパトカーのサイレンが鳴り響いた。亀井は茫然として、逃げることが出来なかった。パトカーの音が公園の近くで止まった。


 今、亀井は吉井、早川、真理子の殺害の裁判を受けている。何かしらの見えない巨大な力が働いているようにも見える。
 亀井は、獄中の中で真相に辿り着けず、死刑宣告を受ける日を待っていた。


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