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kid fresino, ハナレグミ 『that place is burning』とよだかの星

もう随分前にリリースされた曲だけど、未だに聴き続けている。僕はもともとフレシノのファンで、今年リリースされた楽曲は全て聴いている。その中でもこの曲が一番好きだ。フレシノの楽曲に込められたジリジリとした緊迫感が、僕の心を突き動かすのだ。

今回の曲はハナレグミとタッグを組んでいる。楽曲の前半部分ではハナレグミの歌唱の良さが存分に発揮されている。ゆったりとしたテンポでうたわれるほのぼのとした歌詞、山下達郎を彷彿とさせるコーラスも心地よい。全体的に多幸感溢れる音像で、海辺でバカンスを過ごしているような、濃密な時間の流れを感じる楽曲だ。ヒップホップとは思えないほど脱力感ある曲なのだが、かといって締まりがないわけではなく、石若駿が叩く小気味良いドラムが楽曲に躍動感を与えている。

そんな「ヒップホップらしくない」楽曲だが、フレシノのラップが入ることで様相が変わってくる。楽曲のムードが一変するというより、独特の緊迫感が楽曲を徐々に襲うのだ。安穏とした日々を送っていても、覆い隠せない切迫した感情があることを、フレシノのラップは思い出させる。

アルバル『20, Stop it.』収録曲『No Sun』を聞いていても感じたが、フレシノの日常や生活の描写には、何か思い詰めた、張り詰めたものを感じる。どこか生き急いでいるような焦燥感を。

例えばこのあたり。

Easy as lay up busy (レイアップのように簡単だ)

No man's country I do my dance (俺はどんな国でもダンスする)

Backyard pour water in a garden (裏庭では水をやる)

Powder blue shit is what I like (パウダーブルーのクソが俺の好みだ)

I hear silence call my name (小さい声で俺の名前を呼ぶのが聞こえる)

Drive it up get Ms in the bank (車を走らせて数百万を銀行に入れる)

Still alive and that Ain't fuck wit the game (生きていることはゲームじゃない)
No time to get bored and attend that party again (退屈であることや、幾度のパーティーに参加する暇はない)

引用先  https://note.com/ino_formation/n/n96005cafac62?sub_rt=share_pw

じわじわと真綿で首を締めるような焦燥感がフレシノのリリックにはある。放っておくとどこか遠いところに旅立ってしまいそうな危ない速さがあるのだ。

今回、『that place is burning 』を聞いていても、やはり独特の危うさを感じた。彼のラップは速い。速すぎる。それは単に早口でラップしているからではない。身を焦がすような焦燥感を曲から感じるからだ。

この曲を聴いていると、宮沢賢治『よだかの星』に出てくるよだかを思い出す。

醜い鳥でありながら、名前に「たか」が付いていることで、鷹に改名を迫られたよだか。何も悪いことをしていないのに、見た目のせいで忌み嫌われ、名前を変えないと殺す、と鷹に脅される身分だ。そんなよだかも生きていくために虫を殺めていく。よだかはその罪悪感から命を絶つことを決め、住処を飛び立ち、星が輝く夜空に向かって飛び続ける。よだかは空まで昇りつめた果てに息絶えるのだが、その後自分のからだが青く美しい光になって静かに燃えているのを見る。よだかは星になって今でも燃え続けている。

後半ますます加速していくラップは、夜空に向かって身体を燃やしながら飛んでいくよだかのようだ。

i go round the bend (私は曲がり角を曲がり)


met a terrible end
(ひどい結末を迎えることとなった)

the remarkable gain in this game i could ruin my day
(このゲームで驚くような結果となれば、私の人生は台無しになるかもしれない)

have u ever sent the emoji to them?
(誰かに絵文字を送ったことはある?)

it's on a tree but u on a shopping spree
trousers with pleats
(すでにハイになっているけれど、君は買い物に行く。 spreeのプリーツ入りパンツ、)

braids and beads
(三つ編みとビーズ)

diamonds are big and rather unique
(ダイヤモンドは大きくてかなり珍しい)

I'm in my black T like Sama Abdulhadi
(私はSAMAことAbdulhadiのような黒いTシャツを着ている)

i need the Browning automatic pistol for my headache to go
(私の頭痛を治すためには、ブローニングの自動拳銃が必要だ)

sacred moment that place is burning can u see it?(その場所が燃える神聖な瞬間が来た。見える?)



is this dance? yes, maybe-- why not ?!(このキラキラしてるやつ?そうかもしれない。見えるよ)



Light on the planet park (その星に灯りをともしてください)

ハナレグミが甘美な声で最後の歌詞を歌い上げたとき、フレシノのリリックは星になったのだ。

(この曲の和訳は音さんのこの記事を参考にしました。是非こちらの記事も読みながら、この曲を聴いてもらえたらと思います。)


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