夏の木陰へ

私の記憶喪失は 毎年撮っているというのに
今年も桜の写真などを撮ろうとする
(あああ桜の老木は折れやすいのです)

そのくせ 新しい街の本屋で掛けてもらった
ブックカバーの見慣れないことに傷ついている

夏の木陰でしか朗らかになれなくなったのは
いつからだろうか
海から涼やかな潮風が吹き寄せ
白く輝くハマナスの芳香と混じり合う、
夏の木陰でしか明色になれない

あの木陰へ辿り着けるまでは
もう簡単な言葉だけ 泣きながら書かれた言葉だけ
戸惑うような (愛されたい)という呟きを
何も明らかに書こうとしない 百科辞書の愛の項目を

愛したい

咲き誇る桜花を浴びながら
葉桜を思う倒錯をまぬかれるために
今年も桜の写真を撮ってしまう私が
カメラロールに巻き込まれて見えなくなる
(ああ生きていたのだね)

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