抜粋
——テルビウムはその本質的な不可逆性によりf電子を核内に添加した反静電的相互作用に基づいてランタノイド元素を収縮させる傾向があり、六方最密充填構造を取りながら原子価は三、もしくは四あるいは3.14の値を取る一方、経験的には褐色の少女の戸惑いと共にうすい硝酸に溶けることが知られているのは、長年研究者の頭を悩ませてきた問題であったが、一九八四年村井幸太郎らのグループによって明らかにされたことには、褐色の少女に0.5 mol/L程度の星雲懸濁液を滴下すると、その戸惑いが強くなる、あるいは消失するということであった。
『希土類元素の化学 新版』第十五章七節
——テルビウムの流出がもたらしたバブル崩壊の潜在的問題は、経済の混乱それ自体よりもむしろ、テルビウムの文化人類学的側面の議論が中断されたことにあると、寺岡(一九九八)は指摘する。
『テルビウム流出がもたらした社会的影響』佐々学、二〇〇〇
——褐色の少女の戸惑い、あるいは褐色の少女問題とは、現存する最も確かな資料によれば、一七八八年にエチオピアの錬金術師イアーゴー(一部の学説では化学者)によって提示された一連のパラドックスを指す言葉である。イアーゴーは、元素を窒素置換されたフラスコ内に封入しフラスコの口を密閉すると、一部の元素(イットリウム、イッテルビウム、テルビウムなど主に希土類元素)の場合肉眼では歴史学上の戸惑いが観察されるものの、それを記録しない限り戸惑いは存在しなかった場合と区別できないという問題を提示した。褐色の少女の戸惑いという語は、記録係を務めていた少女に観察された狭義での戸惑いに由来する。今日褐色の少女の戸惑いはある種の天文学的条件に左右されることが知られており、例えばテルビウムの場合、希薄星雲懸濁液の存在化では戸惑いを解消できることが知られている。
『ブリタニカ世界大百科事典』第九版七刷
——村井博士が一九五〇年に統合失調症を発病したことは、公的な記録は残されていないものの博士の日記から十分に推量できる。一九五〇年四月一日、博士はこのように日記に記している。「星 てるてるぼうずの大群が私を狙っている。私の船はK博士の陰謀によってその存在位相を見えないものへと変えてしまったらしい。三丁目の角から緑色発光蛍光体が滲み出すのをどうすることもできなかった。これでは褐色の少女の戸惑いはてるてる坊主の大群によって毎秒3 cmずつ解消される他ない。星空が赤紫色に光り月と土星の一時的休戦は依存の本能をなきものにしてしまった——(中略)——ここで最も強調しておきたいのは、褐色の少女の戸惑いがてるてるぼうずのいやらしい目つきによって脅かされているということだ」
認知主義的手法により博士の日記から統合失調症患者特有の表現型が見てとれることは多数の研究者が指摘している。ここで指摘しておきたいのはむしろ、一読して不可解な日記群の中からテルビウム研究の版図を描くことができるということなのである。
『テルビウム研究史研究』中原雄三、二〇一一
——ユーロアジアのセントラリア山脈の西部に少なくとも紀元前一二〇〇年ごろに成立したと見られるミッパシトデ王国の特筆すべき風習は、その成立からシシクゼ人による記述を最後に存在が確認されなくなるまでの約二千年間にわたって、文字以外の形態で言語が記述されることが一般的であったことである。ミッパシトデ王国では種々な鉱物が比較的容易に採掘可能であったことを受けて、鉱物の色の組み合わせによって複雑な文法の言語が記された。現存する最古のミッパシトデ語の記述は、前後は不明瞭であるがおそらく詩の一部であると推察されている、「このような詩はすべてレタスに挟まれたって仕方がない」という一節である。レタスとはこの地域で現在も見られる環状に葉を付ける植物のことであるというのが一般的な見解である。ミッパシトデ語には単体として産出せず、単離が現在の技術をもってしても極めて困難なテルビウムが用いられていることが指摘されており、ミッパシトデ研究における大きな謎となっている。
『表象のミッパシトデ』ケヴィン・シールズ、一九八七
——宇宙を構成する元素には多量の希土類金属が含まれていることが、探査機はやぶさのサンプルによって明らかになった。はやぶさが「イトカワ」から持ち帰ったサンプル中には、テルビウム、イットリウム、テリウムなどの希土類金属が多量に含まれていた。特にテルビウムは宇宙における濃度がロジウムよりも大きいことが判明した。褐色の少女の戸惑いと呼ばれる希土類金属観測時の天文学的影響を取り除くため、サンプルの解析は常時大気中のエーテル濃度を補足し、エーテル濃度を一定にして行われた。
『はやぶさのサンプル解析が終了』、Nature Japan 2022/9/31
https://www.nature.japan.com/articles/h41284-877-97462-z
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