風狂

花は揺れ春の光 どよもすいのちは
もくれん さくら うめ すみれ こぶし すいせん むらさきけまん みつまた すずらん ほとけのざ すずめのえんどう ゆきやなぎ
くるくると くるりくるりと気がふれる 春の風で気がふれる
雪崩うつほころびをどうしたらいい
花は一面こみ上げて あふれあふれてできない
息ができない
……ことばができない
あ あああああ ああ……

とめどなくこぼれ散る花嵐に揉まれ
楔を打ち込めば脆くも崩れる心臓が
いくつも、いくつも連なって続く
そこかしこで
ああその鼓動はもう取り返しがつかない
(……立ち止まらないでください、立ち止まらないでください)
そのまま前へお進みください

立ちはだかる人波
もがくほど前へ進めずに
春風に乗って人たちの声が聴こえる
喝采を! 喝采を!
(あの満開の桜の樹は花束だ
 おまえの燃えるいのちに向けて捧げられた花束だ
 どこまでも行けばいい
 無数の鼓動に取り残された後の世界を)
太陽光線が表皮をかすめ 張り詰めた皮膚が裂ける
液体窒素に咲いた一輪の薔薇のように
美しく波打っては
消えてしまう


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