宇宙晴天

宇宙に雨が降っている
創生以来降り続けている
窓辺から僕を呼んでも
聞こえないよ、降りしきる雨音
絶対零度より少し暖かい
透明な雫がきらめいて
星を渡っていくからさ

君の名前は知らないよ
それでも君、生活をしよう
落としたふりをして
一度は道端に捨てたものを
拾い上げて
海のほうへ
裸足で

海辺のスーパーで君は
お腹が空いているのだけど
人間たちに揉まれて
途方に暮れてしまっている
そしたら知らない男が
これは美味しいと独り言
誰にともなく呟いたのだが
君にはきっと届いたね
五目稲荷をぶら下げて
海まで
自転車で

何百億光年も先から降り注いだ雫が
僕らのちっぽけな海に一滴混じったところで
きっと気がつかないだろうね

雨が上がるまで堤防で
宇宙の雫を探そう
見つかるはずもないけれど
探してみたっていいだろう
波濤から飛んだ水滴なら
雨粒じゃない
ただの飛び魚

いつか宇宙も晴れるだろう
君の涙も止むだろう
晴れ上がった宇宙では
遠くまで見えるのさ
君は堤防から立ち上がり
遠浅の海を歩いていく
遥かなそらの彼方に
古い宇宙の中心で
泣きじゃくる女の子が見えるから

ようやく僕も
君の声を捕まえて
君の名前を知るだろう
あの子の頬を拭えるくらい
残雨に優しく触れるくらい
君の手に再び温かい血がめぐるまで
今は潮か涙で白く吹いた
君の硬い手の平を握りしめ僕は
きららかな宇宙の晴天を
原始の声で歌おう
僕らふたり雨後の獣
てんでばらばらに叫ぼう

二匹の獣が
雨に濡れた毛皮を
澄んだガラスの大気に光らせて
輝く海を跳ねていく
その咆哮がかすかに
あの子の耳に鳴り始める

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