土星の子

雨上がりの街路を行く子、
土星の子。
薄曇りの空から
眠りから覚めたばかりといったようすで
優柔不断な薄日が
黒く濡れたアスファルトをきらめかせる、憂い。
人知れず潤むひとみの上を
滑っていく土星の子、
落下した青栗は道の真ん中で寄る辺を失い
人絶えた通りに土星の子はひとり。

開けた林檎畑の向こう、光る街並み。
街の上空をきしって鳩が群れ飛ぶ
巣食うもの
土星の子は鳩の下では歌えない

街の方より飛び来る鴉、
鳩に追い立てられて
山の手へと落ち延びた鴉。
ブラック・オパールの薄片が
黒い翼の表面で
雨後の光にきらめく
鴉は土星の子が
今だけ匿ってあげる
マントの下に匿ってあげる

砕けた水晶玉のような声で
小さな、小さなささやきが
連なり、連なり。
雨に濡れた羽を撫でれば
夕食の時間です
街の隠れ家へと
蛇行して帰っていく土星の子。

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