花泥棒


冬の寒さに身を縮こまらせ 青い息を呼吸していたあなたは
怯えている、春の禍々しさに。
刃物のように光をきらめかせ
陽気があなたの影をかすめていくたびに
いっそ永久的解法を試してみようか思案する

私はといえば、私のアパートには梁がないものだから
日がな一日野山をさすらい(街でも私のさすらいびと)
卒然と開ける野に崩れ落ちる
私は花を盗みにきたのだ

しだれ桜は風に揺れ 光の速度が間に合わない
哀しい光を湛えた薄墨色の空から 曖昧に散乱する光粒を
あえかな花びらを透かして 掴んでみようとする
私は花を盗みにきたのだ

しかし見えない空の彼方から 航空機の低音が唸り
春の生命を摩耗させていく
そうして私は
私の略奪行為が既に間に合わないものであることを知った

胸いっぱいに春の残酷な香気を呼吸して
ありったけを中空に掲げる 盗み出した花の全てを
ムスカリの秘事を こんな精神を
そうやって私は祈る
どうかあなたの喉に 紐が食い込むことのなかったように

ここから先へはどこも行かない 二度とここにも帰らない
茫茫と広がる航路を前に、
あなたが遠くなってしまった気がする前に。
冬は過ぎ去った、セーターを切り刻め

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