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ふしん道楽 vol.31 防犯

最近、物騒なニュースが増えてきた。
自動販売機が壊されたり公共物が持ち去られたりも恐ろしいが、地方の人里離れた一軒家に強盗が入って金品を奪われたというようなニュースを見ると戦国時代あたりのエピソードのようで、世の中が退行しているのを感じる。
そんな話は日本昔ばなしのなかだけにしてほしい。

それにしても野中の一軒家を狙うとは、やはり人の目が少ない、単純に入りやすい場所を狙っているような印象がある。
そういった家は大抵、玄関も窓も昔ながらのあっさりした鍵で、何なら施錠していないことだってある。
地方の古い家で年老いた両親が暮らしているような方は気が気じゃないだろう。

取り急ぎできることとしては、ガラス窓に防犯シートを貼って簡単に割られないようにすることと、サッシに二重の鍵を付けること。
これはホームセンターなどでも売っているし取り付けもそこまで難しくない。
できれば玄関の鍵も最新の暗証番号やキーレス錠などのスマートロックに
取り替えておくと良いかもしれないが、これはこれでお年寄りなどには使いにくく感じてしまうかもしれないので、単純に鍵を二つにしておくだけでも良い。
開錠に時間がかかるため空き巣などは面倒くさがって回避するそうだ。
防犯カメラや人感センサーのライトも抑止力にはなるかもしれないが、
そんなものは侵入するつもりで来る人間にとっては大した脅威ではない。
たとえセキュリティー会社に登録していたって警報が鳴ってから警備員が来るまでには時間がかかる。
ましてや人里離れた場所であればなおのことだ。

新しく建て直すタイミングで、防犯を意識した住宅につくり変えることを考えるべき時代が到来したのかもしれない。
ちなみに私が自宅としていた鎌倉の古い家の玄関には元の鍵のほか、前の住人が後から付けたらしき鍵が4つもあった。
もしかしたら泥棒に入られたことがあったのかもしれない。
なので裏庭にはセンサーを付けてもらったけど、たぬきや猫が通るたびに
反応して困った。
防犯設備にはそういった穴も案外あったりする。

50代の私の世代でも、地方出身の友人知人には「子ども時代は鍵なんてかけたこともなかった」という人が結構いるが、よく考えたら私自身もそうだった。
子ども時代は玄関に鍵などかけておらず団地の上層階だったこともあって窓も大抵、開けっ放しだった。
しかしいつのころだったか、7階建くらいのマンションの屋上から縄梯子で下りて最上階の部屋に侵入したというニュースに衝撃を受けて、ベランダに面した窓にも鍵をかけるようになった。
よく考えたら盗まれるような財産も現金も一つもないのだから心配無用であったが、屋上からも侵入できるという一点に、ただただ怯えた。

マンションと一軒家ではその防犯対策も違ってくるが、ひとくくりにマンションといっても高層と中低層、大型と少数戸とでまた別だ。
20階以上、高さ60m以上と定義されるタワーマンションの場合、窓からの侵入はそこまで脅威ではない。
いくら泥棒といえど普通に怖すぎるだろう。
屋上から下りるといっても風も強いし日差しも強い。
しかしここが落とし穴で、窓からの侵入も玄関からの侵入も難しいだろうと安心しきってセキュリティーが甘くなり施錠しない人も多いという。
その結果、宅配業者を装ったり、まさかの屋上からロープでの侵入に成功したりといったケースもあるので油断大敵だ。

それでは中低層マンションで、個人所有の総戸数10〜20戸くらいのこぢんまりしたタイプのものや、10〜12階建くらいの大型マンションで、非常階段などによって普通に外からも入れてしまうようなタイプはどうだろう。
もちろん表にはオートロックも付いているが、よく言われているように侵入はたやすい。
帰宅する人や宅配業者と共にするりと入ってしまう。
エントランスにフロントがあり、コンシェルジュが24時間対応している
ようなマンションは別として、普通は人がいても24時間ということはあまりない。
それでも誰かがいることでだいぶ違うが、土日と夜間は受付に人がいなくなるというマンションも多いし、オートロックのみで管理人不在というところだって少なくない。

結局のところタワーマンションでも中低層マンションでもひたすら自分が注意するしかない。
すでに玄関まわりやエレベーター内などに防犯カメラは設置してあり、オートロックが付いていても、これ以上の防犯対策は己の注意力いかんにかかっている。

この先、治安が回復するよりも悪化する可能性の方が高いし、平和で安全な日本で生まれ育った世代は、悪い奴がこの世にはたくさんいて、いつでも狙われているということに対して驚くほどに鈍感だ。
この先は注意力、というかもうこれって妄想なんじゃないか?と思うレベルで犯罪の可能性を考えた方が良いと私は思っている。

そんな妄想力抜群の私は数年前、今ほどに治安も悪化していなかった時分に
リフォームしたマンションのクローゼットを「パニックルーム」にしてもらった。
もしも押し入り強盗などに入られたらすぐに中に入って内鍵を締め、警察が来るまで何とかやり過ごすために内側の扉の横に鉄扉を入れておいた。
それをスライドさせると自動的につっかい棒がドアの左右に斜めに倒れて、ちょっとやそっとでは開かない。
力の強い人間が蹴ってもさすがに鉄扉は開けられまい。
これでもしもの時も大丈夫!と安心していた。

しかしあるとき、何らかの拍子に内側の鉄扉が勝手に閉まって、ご丁寧にもつっかい棒までが作動してしまった。
当然のことながら外からは押しても引いても開けることができず、どうしたら良いのか皆目見当がつかない。
壁を取り壊すしかなかろうと大騒ぎになった。
別の意味でパニックルームである。
どうしたのかは防犯上お話しできないのだが、何とか道具を使って開けることに成功したものの、それ以来、勝手に鉄扉が閉まらないようにそれを止めておく装置というのを付けてもらった。
何とも間抜けかつ面倒な話である。

防犯は大切だが、このパニックルームのようにアホなことにならないよう、
読者諸兄には十分ご注意いただきたい。

初出:「I'm home.」No.131(2024年7月16日発行)

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安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

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