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還暦不行届

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安野モヨコと庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」。「監督不行届」の文章版となる新作エッセイ『還暦不行届』が読めるマガジンです。第壱話、第弐話は無料で読め… もっと読む
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記事一覧

還暦不行届 第十八回 事実確認

能登半島地震で始まった今年であるが、あまりのことに 正月早々呆然として心が破れるような思いをした。 突然家族を失ってしまった方や家を失った方のことを思うと 言葉もなくただ黙祷するしかなかった。 東日本や熊本のような災害が起こるたびに 何もできないなりに寄付をしたり少ないながらも支援をしてきた。 今回もまた同じように支援していこうと思いつつも 東日本の時に、みんながせっせと寄付していたお金が 謎のNPO法人によって何億も横領されていたことを思い出した。 「行方不明者の捜索

還暦不行届 第十七回 自転車

もうしばらく自転車に乗っていないな、と考えてみたら 10年以上乗っていないことに気がついた。 自転車と水泳というのは一度できるようになったら どんなに期間が空いても体が忘れない「手続き記憶」というものだから 乗ってみれば大丈夫らしい、というような話を ドライブ中に監督と話していた。 「モヨは何歳で自転車乗れるようになったの?」 と、聞かれたので小学校1年生の時に自転車を買ってもらって しばらく補助輪付きで乗り回していたけど 2年生くらいまでには補助輪を取った。 という話を

還暦不行届 第十六回 言い間違い

監督がネルシャツのことを寝る時用のシャツだと思っていたことは このnoteでも書いたことがあるのでみなさまご存知だと思う。 実は監督はこういった類の思い違いだけでなく、うろ覚えとか 間違えて覚えていることが尋常でなく多い。 本人曰く 脳の容量を仕事に使用しているので人名や場所、固有名詞に メモリーを使えないということだった。 だからと言って日常でほぼ毎日使う シャンプーのことを「髪を洗う洗剤」と言うのはどうなのか。 記憶喪失の人でも日常に使うものは覚えているというが そ

還暦不行届 第十五回 運貯金

少し前にコロナに感染した。 気をつけていたつもりだったが長期にわたる緊張の糸が切れて色々と緩んでいたのだろう。 どこで感染したのかもわからない。 なんだかくしゃみが出るし体調が良くないかな? と思っているうちに熱が出始めてあっという間に高熱になった。 すぐに発熱外来に行って無事陽性の判定をもらい 熱冷ましや抗生物質などを処方され、自宅療養が始まった。 40度近い熱は貼るタイプの熱冷ましでは間に合わず 保冷剤(後ハッピーマニアでも描いた『ひやしんす』と言う銘柄) を手ぬぐ

還暦不行届 第十四回 監督の手料理

好き嫌いについてはいろいろと書いてきたけれど 監督がお料理をすることについてはまだ書いたことがないような気がする。 そもそも出会った頃は家にヤカンすら置いていなかった。 マグカップ、コップといったものも見当たらない。 家でお湯を沸かしてお茶やコーヒーを淹れるといったことを まるでやらない。 喉が渇いたらコンビニに行って冷えたジュースを買い お水を飲むときは蛇口の下に顔を突っ込んで 流れてくる水道水を直接飲んでいた。 食器などを買わない家にもワンカップ日本酒の空きコップく

還暦不行届 第十三回 旅の思い出

今年の3月で結婚して20年を迎える。 いまだに私たちが夫婦だと知って驚いている人が いらっしゃるのを散見するけど、 まさかこんなに長く一緒にいると思わなかったので自分達でも驚いている。 本当なら20周年記念でどこか旅行にでも行きたいところだが、 このご時世では難しい。 大人しく家で過ごすことになりそうだ。 思えばこの20年いろんな場所へ旅行した。 私は忘れん坊なので全部は思い出せないが、今パッと思い出せるものについて書いてみようと思う。 最初の旅行。 まだはっきり交際し

還暦不行届 第十二回 ファッショニスタとは

監督が決まったものしか着ない、と言うのは何回か前の還暦不行届でも書いた。 とにかくひたすら着替えることやコーディネートが面倒らしい。 シャツ類はボタンをひとつひとつ留めるのがめんどくさい。 と言う理由でプルオーバーしか着用しない。 それほどまでに衣類にエネルギーをさきたくない人間なのだった。 なのでそんな監督が悩まないようにスティーブ・ジョブズのようにデニムに黒タートルなど、 同じコーディネートをずっと続けるのもありだと思いつき、 最初の頃トライしてみた。 しかしいかんせ

還暦不行届 第十一回 お風呂おじさん

「監督不行届」のなかに風呂場でウルトラマンごっこをする監督の 描写がある。 一応コミックスの最初に「この物語はフィクションです」などと銘打ってあるが、 何を隠そうあの部分に関しては事実である。 まあ、全く隠せてないけど。 (「監督不行届(祥伝社発行)」第参話より) もちろん他に人がいるような場所ではご迷惑をかけるのでやらない。 「今大浴場に誰もいなかったからウルトラマンごっこしてきた」 頭からほかほかと湯気を出しながら部屋に帰った監督から 報告を受けたのが最初だったよう

還暦不行届 第十回 運転交代

先日監督が車をぶつけた。本当に珍しいことで 10年ぶりくらいだろうか。 結婚してから日常的に車に乗るようになり 20年近くたつ。 10年前くらいまではたまに擦ったりしていたけど、 最近は全くそういったことがなかったので助手席に乗っていた私も 不意打ちをくらい驚いてしまった。 ナチュラルに発進していつも通りにハンドル切って 後ろの塀にゴインってぶつけて「え!?」 と2人で顔を見合わせた。 監督自身も全く予想していなかったようだった。 降りていってぶつけたところを確かめると

還暦不行届 第九回 ひとつしかない男

リモートワークになってから久しいが、私の事務所では 毎週火曜日に全員が参加する「ナンナントウ会議」というのがある。 着物の部門に携わっている外部スタッフ含めた「百葉堂会議」 シュガルンのグッズやカレンダーの進行を決める「シュガルン会議」 などメンバーが違う会議がいくつかあるのだが、 統括して全体の進捗を確認したり相談したりするのがこの火曜日の会議だ。 先日この会議中に監督が乱入してきた。 しかもお腹丸出しで困り顔。 どうしたのか問うとベルトが見つからないという。 監督は

還暦不行届 第八回 庵野家最強の存在

監督はよく鼻歌を歌っているがそれは大抵オリジナルソングで 歌詞は大抵「サリーは可愛い」とかむにゃむにゃして言語になっていない何かだったりする。 ちなみにサリーとはうちの猫で、初代飼い猫庵野マイティジャック亡き後は 庵野家において最強の地位にいる。 どれほどに最強かというと、仕事に出かけようと支度を終えて あとは出かけるだけ、という状態の監督を呼びつけて 「お腹を撫でろ!」と強要し毎回しっかり撫でさせているし 眠る時は監督の二つある枕のうちのフカフカな大きい方をベッドのように

還暦不行届 第七回 集中力

監督は眠っている時の姿が変わっていて 浜辺に打ち上げられた棒みたいに一本になって寝ている。 体の中にある本体が抜け出して、その際入れ物である肉体を ぽいと投げ出して出かけてった、というような感じがする。 なんでそんなふうに感じるかというと 普段から監督の動きがそんな様子だからだ。 テーブルの上にある醤油さしなどを取るときも アームを動かして、醤油さしを掴み、持ち上げる、というように 小さい人が大きいロボットの頭の中に入って 「操縦」してるみたいに見えることがある。 N

還暦不行届 第六回 結婚式

先週「シン・仮面ライダー」の情報が解禁になったので 監督のライダーコスプレ画像を久しぶりに見た。 30年以上前の模型雑誌の企画ページで 仮面ライダーのスーツを着た監督はヘルメットを小脇に抱えて 嬉しそうに笑っている。 漫画の「監督不行届」の第1話で 「結婚(式) 新郎が仮面ライダーのコスプレをし花よめのコスプレをした新婦と2人でお世話になった方々へ同人誌を配ること これがマンガ・アニメ界においての正式なスタイルです」と描いた。 そのほうが漫画的には面白いのでライダースー

還暦不行届 第五回 先祖からの伝言

やっとのことでエヴァが公開されて本当に本当にホッとしてる。 こういうことを書くと一部の熱心なエヴァファンの方々からは お前が身内ヅラして言うような事ではない と、お叱りを受けるかもしれないけれど 製作者側に立って、などとはもちろん思っていない。 私のやったことなどは本当に少し装飾を手伝った程度のことだからだ。 ホッとしたのはあくまでも「家族が、抱えていた一つの大きな仕事を終わらせた」 と言う意味での安堵である。 監督は夢中になってしまうと他のことが全く見えなくなるたち