【ネタバレ含みます】SFの記憶装置としての十三騎兵防衛圏

昨年の11月に発売されたヴァニラウェアの新作ゲーム『十三騎兵防衛圏』を年末から始め、先月末クリアに至った。

非常に面白く、未クリアにも関わらず昨年の年間ベストゲームに挙げた次第だが、面白かったポイントを詳細に書いてしまうとネタバレを回避できない作品でもあり、紹介するのが実は難しい。実際、商業メディアの記事でストーリーに踏み込んで書かれているものは少ない。

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しかし、これは個人のnoteである。商業ベースで書いているわけではないので忖度する必要はない。そこで、今回はある程度のネタバレは辞さずに紹介してみようと思う。だが、単にゲーム性や物語を解説するのも面白くないので、本作の様々なSF系の作品要素を取り込んだキメラ的なスタイルが何で構成されているのか、私が何を見出したのかを中心に紹介する。これによって各所で話題の本作が何故話題になったのかがが少しはご理解いただけると思う。

十三騎兵防衛圏をプレイした人の誰もが思うのは「この話はどこへ向かうのか?」ではないだろうか?序盤から一切状況が説明されず、時系列もバラバラな状態で、プレイヤーは提示される断片的な情報を基に時系列を組み立てていかなければならない。シーンの間で起こっていることも自身で補完していかなければ埋められないようになっている。しかも、それが13人分の視点が複雑に絡み合っているとなれば一度のプレイで完全に把握することは至難の業だ。複数の視点を切り替えながら進めていくアドベンチャーゲームといえば、チュンソフトの『街』や同スタジオの『428 封鎖された渋谷で』が感覚的に近い。

しかし、時系列の断片化が進んでいる分、十三騎兵防衛圏の方がより複雑なのも指摘しておく。断片化の度合いで言ったら、Rayarkによる音ゲー『Cytus II』のシナリオ部分が近いかもしれない。あちらのSNS上のやり取りを切り取ったテキストは少し毛色は違うものの、似たものを感じ取る方は多いだろう。

映画でやってしまうと、難解極まりないものとなるだろうが、入手した情報を確認したり、時系列順で物語を回想できる「解明編」の存在によって極端な複雑化を回避できている点が秀逸。そもそも、こういった複雑な物語は立ち止まる、何度も確認する、テキストでも音声でも映像でも自分の好きなタイミングで振り返ることが可能なビデオゲームだからこそ可能だと思う。メディアの特性を理解しているからこそのシステム作りだけでも評価に値するが、語られる物語もまたメディアを活かした巧妙なものだ。

本作の舞台となるのはメインが1985年だが、1945年、2025年と3つの時代の人物が行き来することになるタイムトラベルものの構造が最初に提示される。本作で描かれる1985年の日本の光景はノスタルジックで、美しい2Dアートが堪能できるグラフィックと表情豊かなアニメーションと合わさって非常に心地よいものだ。斉藤由貴主演の『スケバン刑事』(1985年)のような鷹宮由貴や、今時アダルトビデオかコスプレぐらいでしか見られないブルマ姿が眩しい南奈津乃、理科実験室からタイムトラベルする『時をかける少女』(1983年)な冬坂五百里といった美少女の存在や、公衆電話、レコード、VHSをはじめとした時代の遺産が80s感覚たっぷりに描かれる。

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スケバン刑事を元ネタにした『キルラキル』で主演だった小清水亜美が鷹宮由貴役というメタなネタもあったり・・・

そこに未来から来たロボットを、月刊ムー読者ならばおなじみのMIBから守ろうとする『E.T.』(1982年)的な展開があったり、美少女が巨大ロボットに乗って怪獣と戦う80年代のアニメに典型的な「ロボ×美少女」の絵面もありという徹底ぶり。ちなみに巨大ロボットのルックスは『ロボ・ジョックス』風な武骨なものなのがカッコよい。

余談ついでに書いておくと、未来から来たロボット「BJ」のルックスは小島秀夫監督の『スナッチャー』に出てくるメタルギアMk.IIと『ショート・サーキット』(1986年)のロボットを組み合わせたようなデザインだ。

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80年代の雰囲気がある中で、1945年の帝国陸軍の兵士や未来人が出てきて一緒に侵略者と戦うタイムトラベルSFかと前半では思うわけだが、それが中盤あたりから決定的にひっくり返る。そもそも、なぜ80年代なのか?なぜ1945年以前は出てこないのか?なぜ13人の少年少女が戦うことになるのか?こういった疑問には答えはきちんと用意されているから安心されよ。

その中盤からの展開によって明らかになるのが、この世界は1980年代ではないということだ。勘のいい人だったら前半に散りばめられた断片から答えを出せたかもしれないが、実はこの世界は作り物の箱庭である。この展開は1980年代の「一番よかった時代を凝縮した」世界に騙された『メガゾーン23』(1985年)そのままだったりする。

こういった「世界が作り物だった」という展開は珍しくはないのだが、登場人物の設定に捻りを加えることで、さらなる転覆を起こすのが十三騎兵防衛圏の一筋縄ではいかないところだ。

箱庭の中で暮らしてきた少年たちはクローンである。
それに怪獣たちとの戦いはこれが初めてではない。何度も戦って何度もリセットしてきたループ世界に彼らは生きている。それはさながら何度も死んでまた別の個体として戦場に戻ってくる『スカイ・クロラ』(2008年)の少年たちのようにも見える。永遠の日常、永遠の戦争、楽しい仲間たち、心地よい80年代。ゲーム前半で提示されてきた美しく楽しい時間があるだけに、このまま続いていてもいいのではないかと思えてくる。長時間プレイすることで持ってしまった世界への愛着はゲームならではの重みだ。

しかし、彼らはループを脱するための闘いを決意する。
たとえ自分が記憶を記憶を捏造されたクローンであろうとも、自分たちの世界がまやかしであろうとも挑んでいく。それぞれが戦う理由を見つけ、決意した瞬間のドラマ的な高揚感、続いて待ってました!騎兵の登場!それまで日常ベースでキャラクターに寄った物語を積み重ねているだけに、背景の騎兵が動き出す瞬間のキャラとの対比が生み出すスケール感は圧倒的だ。

キャラクターと同様にプレイヤーも先を進める選択をする。
新しい展開があるたびにプレイヤーは選択する。
一本道のゲーム故に実際のところ選択肢は一択なのだが、それでも積極的に選ばなければ進まないのがゲームである。
何度も訪れる選択の瞬間、『マトリックス』(1999年)の赤い薬を飲むか青い薬を飲むかの問いに答えるネオの気持ちになるでも良し、『涼宮ハルヒの消失』(2010年)のキョンのように平々凡々な生活にNOと言ってもいいし、『進撃の巨人』のように壁の向こうを目指す決意の雄たけびを上げてもいい。

ゲームで選択をする瞬間、それは紛れもなくあなたの選択であり、そこで語られる物語はあなた自身が選び取ったあなたの物語だ。最後まで進むころには単なるキャラクターの小芝居には見えなくなっているだろう。

日常と戦闘のループといういかにも「ゲーム的」な状況から抜ける戦いが、これまたゲーム的なタワーディフェンス方式のリアルタイムシミュレーションというのも面白い。この方式は、常に引き画の俯瞰した視点でキャラクターに指示を与えて動かすため、客観性が強調されたプレイしている感覚があるのが特徴だ。効率的に動かしていくのが攻略の肝となり、時には捨て駒として動かしてしまう場合もあるだろう。騎兵が指示通りに動いていく様は『スターウォーズ』世界のボードゲーム「デジャリック」のようにも見えるかもしれない。

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しかし、濃密なドラマを見てきたプレイヤーにとって、キャラクター達は単なる手駒ではない。崩壊する街にだって見知った人たちが住んでいるのも知っている。書き割りの背景ではないのだ。これに気づいたとき、盤上で展開されていたゲームは、神の視点を持ったプレイヤーに挑む、ほんのわずかだが、しかし強力な抵抗線戦へと印象が変わった。他人事のように傍観しようとするプレイヤーに対して「俺たちはここにいるぞ!」とキャラクターが迫ってくる感覚があったのだ。
これ以降、一戦一戦の没入度が高まったことは言うまでもない。アドベンチャーパートとシミュレーションパートとを並行する必要があるため、印象が進めていく途中から変わっていく仕掛けがあるのも上手い。キャラクターに寄ったドラマを描くことで、客観性の高いゲーム性にドラマ的な没入感をもたらすことに成功したのは画期的ではないだろうか?

十三騎兵防衛圏は断片の物語が大きな物語へと変わっていく雲が晴れていく喜びと、長時間をかけて世界に浸ることによって物語への没入を促し続ける。一見客観的にみえるパートであっても、主体性を持って世界への参加が要求されるシステム作りがお見事だ。その物語には魅力的なSF世界の記憶が練りこまれ、詳しい人ならばより一層の感情移入を、知らなかったとしてもこの世界に込められたノスタルジーは感じられるだろう。しかし、本作はノスタルジーには留まらず、一歩抜け出す、新たな地平を目指す視点を持った進歩的な思想が見えるのも魅力だ。まだ見ぬ地点にも希望はある、そこからはあなたの物語だとそっと背中を押してくれる。本作のエンディングはそういうものだ。

SF作品との関連で紹介を書いてきたが、もっと細々とした部分でもSFネタは出てくる。例えばロボットが『機動警察パトレイバー』同じく「98式」とか、アイドルがテレビから話しかけてくるのは『ビデオドローム』(1982年)だとか。深堀すればもっと見えてくるがあとはプレイして確かめてほしい。

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物語に関してもネタバレはしているが、詳細はあえて端折っている。
これを読んだうえで興味を持った方は、是非ともプレイしてほしいからだ。アドベンチャー好きならば後悔しないはず。そしてクレジットを見てキャスティングがどうなっていたかを確認してニヤリとしてほしい。声優さんって器用だなぁと思いますよ。ホント。

一応の総括をしておく。
十三騎兵防衛圏は直線的に描けばよくできたSF作品のキメラだが、ゲームの特性を活かした絶妙なストーリーテリングによって、大傑作にまで昇華した見事な作品だ。タイムトラベル、ロボットバトル、フィリップ・K・ディック的ひっくり返し、ループもの・・・とSFのサブジャンルを横断していく作りはハマれば忘れ難い作品になることは必至だし、SF系のアドベンチャーで今後これを超えることは難しいだろう。そもそも同じ構造のゲームは二番煎じにしかなり得ないという点で唯一無二の作品である。今すぐやれ!以上。

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