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ネクストジェネレーションものとしての『新サクラ大戦』

今回はPS4向けのゲーム『新サクラ大戦』の話。

ナンバリングタイトルとしてはPS2向けに2005年に発売された『サクラ大戦V 〜さらば愛しき人よ〜』以来14年ぶりとなるファン待望の新作にして、セガにとっても、セガサターン・ドリームキャスト時代に大ヒットした自社IPの復活作ということもあって大々的にプロモーションを行って2019年12月にリリースされました。10年以上新作を待ち続けてきたファンも大盛りあがり。

しかし、リリースされてみるとゲーム性の変更や、キャラクターやシナリオに対するバッシングも多く、Amazonの商品レビューを見ると低評価がかなり目立つ結果となりました。2019年4月からは本作の後日談をアニメ化した『新サクラ大戦 the Animation』が放送されていますが、こちらも厳しい評価が目立つ状況です。

『新サクラ大戦』について書く前に私自身のことを書いておくと、サクラ大戦のシリーズ自体は以前から知っていたし、テーマ曲「檄!帝国華撃団」はあまりにも有名、アニメ化された作品も見たことがありましたが、実は元のゲームを遊んだことは今までありませんでした。今回、この文章を書くにあたってそれなりに下調べをして、実況系のプレイ映像や、アニメ化作品を見たり、各種インタビューを読んだりはしていますが、現行のハードで過去のシリーズ作品を遊ぶことができないのが残念でなりません。ナンバリングタイトルだけでもPC版をSTEAMで販売したら国内外で確実に売れると思うのですが・・・

長らく新作が無かったこともあって、私と同世代の方でハードコアなサクラ大戦ファンというのは少ないのではないかと思います。そんなわけで、『新サクラ大戦』はリリース前から気になってはいたものの、他にプレイするゲームもあったのでスルーしてしまって今に至ります。そういうサクラ大戦に関してそれほどの熱意がない人間にとって本作はどう見えたのか?

結論から言います。
今後に期待が持てる新シリーズの幕開けとして良いぞ!

『新サクラ大戦』の問題点

大失敗とは言わないものの、やはり色々言われている通り、問題も含んだ作品だと言わざるを得ません。

新サクラ大戦が他のシリーズ作品と決定的に異なる点として、戦闘パートのゲーム性がそれまでのシミュレーションRPG方式から3Dアクションになったことが挙げられます。イメージの刷新を図ること、技術面での向上によって3Dでの戦闘描写も楽になったことなど理由はいくつか考えられますが、シミュレーションRPGはコアゲーマー向けなジャンルになりつつあるため、よりライトな層に向けてアクションに変更するのは間違っていないと思います。

アクションゲームになっていること自体は問題ないのですが、敵のバリエーションが少なく、単純なパターンでしか攻撃してこない、数ばかり多いなど何となく無双シリーズのような手触りですが、マップを移動しつつ、ザコ敵を倒すだけのステージ構成が続くため、単調さが目立ちます。難易度的にも基本的にボタン連打でほとんど勝ててしまうし、割とテキトーにやっていてもクリアできます。戦闘は上手くなるほどに作業感を感じることでしょう。特にやりこみ要素に当たる戦闘パートリプレイ「いくさちゃん」は同じステージをパートナーキャラクターを切り替えてプレイするだけのモードのため、トロフィーコンプリートのための作業にしか思えなくなってきます。せめてクリア条件を設定する、本編とは異なったサイドストーリーを用意するなど、繰り返しの作業にならない工夫をするべきだと思いました。

私がプレイしたバージョンは1.01であり、リリース当初は実装されていなかった敵へのロックオンやAIの改善、どこでもセーブ可能、メッセージのログ機能など細かな修正が行われています。修正の内容を見る限り、修正前の状態でプレイしたならば、快適さはかなり減ったことでしょう。プレイするタイミングによって評価が大きく変わるゲームなのではとも思います。

ゲームとしてのクオリティの問題に加えて、シナリオにも問題があるのですが、終盤の強引な展開や、華撃団連盟のユルユルっぷりにちょっと呆れた程度で怒るほどのものではありません。過去作と比べて極端に荒唐無稽というわけではないし、強引な展開があるのは以前のシリーズも同じことです。そもそも、このシリーズのアイディアの根本には宝塚歌劇団があることを考えれば、このぐらいの思い切った超展開のほうが適切です。華のある舞台のお芝居を見る感覚がサクラ大戦のシリーズの一つの魅力なのは間違いありませんから。

次世代につなげることの難しさ

長らく新作がないことでシリーズが途絶えた作品を復活させる動き、登場人物を入れ替えた新シリーズを始める流れは本作に限らず、様々なアニメや映画で実行されています。

アニメで言えば『ラブライブ!サンシャイン!!』、映画ならば『スター・ウォーズ』エピソード7以降、アニメや漫画で展開されていたシリーズを実写ドラマにした『THE NEXT GENERATION パトレイバー』、『スター・トレック ネクストジェネレーション』など、リメイクやリブートも含めれば数え切れないほどの作品がシリーズの継続のために作られてきました。

シリーズ復活に向けた戦略もまた様々です。

『ラブライブ!サンシャイン!!』ならば、前シリーズで活躍したアイドルグループが引退した後の世界で、偉大なる先駆者の後を追う田舎の少女たちのサクセスストーリーを展開しています。直接登場させることはしないものの、先駆者の功績をロールモデルにして成功を目指し、しかも見事な成り上がりを果たすたくましさを描いた痛快な新シリーズとなっていました。

『スター・ウォーズ』の場合は、エピソード4~6の約30年後の世界で、どういうわけか戦争を終わらせられなかった反乱軍の人々とポスト帝国軍の戦争を描いています。そこには前作までに登場したルーク・スカイウォーカーやレイア姫、ハン・ソロなどがキャスティングそのままに再出演。新キャラクターのメンターとしてちょこっと出るのかと思いきや、割と出演シーンが多く、気づけば見どころの殆どが前作までのキャラクターという事態に。その傾向がエピソード8、9と重ねるにつれて高まった感覚があります。せっかくエピソード7で魅力的な新キャラクターを紹介することが成功したのに、活かしきれずに既存のキャラクターに頼った展開をしてしまったことが、エピソード7以降のスターウォーズへの最大の不満点です。

このティーザーを見たときは最高にアガったけどさ・・・

『ミッション・インポッシブル』は、現在ではトム・クルーズのスタント大会と化していますが、元はといえばドラマシリーズ「スパイ大作戦」の映画化であり、映画化の際には冒頭でチームメンバーはトムクル以外皆殺し、仲間だと思っていたボスも悪いやつという、思い切った展開でドラマシリーズとの訣別を果たしました。3作目からはチームものとしての傾向も強めており、同じスパイアクションシリーズでも007とは一味違った雰囲気のものになっています。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー』の場合は、栄光の初代に対して、2代目は凡庸、3代目は無能という考えの元に3代目特殊車両2課のダラダラとした日常と、少しの活躍を描いています。一部のエピソードはTVシリーズやOVAのものを基にしつつも、初代の栄光を知らない、興味もない若手たちを主人公にすることで違った味わいの作品にすることに成功しています。

こういった、様々な新シリーズの展開戦略がある中で、『新サクラ大戦』は前シリーズに登場した帝国華撃団花組に憧れるヒロインを中心とした次世代の物語を描いています。花組のメンバーは総入れ替えですが、総司令には元花組の神崎すみれが就任しています。作曲家は続投ですが、他のスタッフは入れ替わりがあるということで、前世代と次世代が登場し、音楽担当のジョン・ウィリアムズ以外はスタッフを入れ替えた『スター・ウォーズ エピソード7』と同じような構造になっているのが面白いですね。しかも、作品としても前シリーズのファンに向けたサービスをしつつ、新キャラクターを紹介し、前シリーズとの一つの区切りを見せることで、次世代へのバトンを渡す物語と言う点でもよく似ているのです。だからこそ、気になるのが今後のシリーズ展開です。

新しい夢をはじめるために

新サクラ大戦のキーワードとなるのはなんと言っても「新」です。

舞台設定や基本的な世界観は変わらないものの、新しい物語、新しい登場人物、新しいデザイン、新しいゲーム性と同じ土地に新しい家を建てるような試みです。

ビジュアル的な変化としてはキャラクターデザインの変更は大きいでしょう。今までのシリーズはキャラクター原案に藤島康介、アニメーターの松原秀典によるものでしたが、『新サクラ大戦』では「BLEACH」の久保帯人をメインに、「HELLO WORLD」「たまこまーけっと」の堀口悠紀子、「サクラクエスト」「終末のイゼッタ」のBUNBUN、「涼宮ハルヒの憂鬱」のいとうのいぢなど、多くの漫画家・イラストレーターが参加する体制になっています。デザイナーが複数だとバラバラの印象になることが懸念されますが、各国の華撃団ごとにデザイナーを振り分け、CGモデリングで調整を加えることで、バリエーションを豊かにしつつもサクラ大戦の世界観に収めることに成功しています。

サクラ大戦を構成する大きな要素として田中公平による音楽、特に歌の存在が大きいですが、『新サクラ大戦』においてはこれまでのシリーズを通して使ってきた「檄!帝国華撃団」を大幅にアレンジした曲をメインテーマとすることで、まるで違った印象を与えてくれます。
イントロはいつもと同じかと思いきや、エリック宮城による超ハイトーンのトランペットに、フュージョン系の若手ドラマーとして名を馳せる川口千里による高速タム回しで何かが違うと思わせ、続くAメロはまさかのメロディから別物。そこから繋がるサビは基本メロディは同じものの、一段高い音程で返すコールアンドレスポンスという衝撃展開。
「夢は蘇る帝国華撃団 我ら新章(あらた)なる帝国華撃団」
復活と新たなはじまりを告げる歌詞も素晴らしい曲です。

メインテーマだけではなく、全体を通して「新しさ」を意識したような楽曲の多さが印象的です。メインキャラクター毎の楽曲は今までのシリーズ作の曲では聞けなかったような曲調もありますし、劇中に登場する他国の華撃団それぞれのテーマ曲もバリエーションに富んでいます(どれも歌うのがメチャ難しい!)。前述のドラムの川口千里に加え、ギターに菰口雄矢、ベースに二家本亮介ら若手凄腕ミュージシャンが参加している点でも新しいことをやろうという意識が伺えます。エンドロールに流れる楽曲「新たなる」も未来に向かっていく意志を表した良い曲です!

↑個人的に気に入っているのが上海華撃団のこの曲。メカデザインも秀逸

「新しいはじまり」を印象づけるものとして、劇中で帝国華撃団が「ももたろう」を演じる場面がありました。
何故ももたろう?と思われるかもしれませんが、実は宝塚少女歌劇団(現:宝塚歌劇団)の初公演の題材が「ももたろう」だったからです。新しいはじまりの物語にはピッタリな題材の選び方ではないでしょうか?

宝塚歌劇団は出演者は女性のみ、見目麗しいスタァたちによる歌あり踊りありの華やかなレビュウが見もので、その起源は1913年(大正2年)。長い歴史の中で様々な演目が演じられ、幾度ものスタァの世代交代も行われてきました。もちろん、演目の内容も時代とともに少しずつ変化していっています。変化によって離れていくファンも居るでしょうが、新しいファンも付くことでしょう。歴史を持つとはそういうことです。
数人で演じた「ももたろう」からはじまり、各国の華撃団と歌い踊る大団円で終わる『新サクラ大戦』には歴史を背負った上で、新たなる道への一歩を踏み出す覚悟を感じます。スター・ウォーズ新三部作は旧来のファンを満足させることばかりに注力してしまっていましたが、『新サクラ大戦』はファンサービスだけを目指した作品ではありません。私自身はそこが良い点だと思いますが、旧来のファンにとっては気分を害することにもなったのでしょう。それでも良いと突き抜けるSEGAの攻めた姿勢は応援したいと思います。

『新サクラ大戦』は次の一歩を踏み出すスタート地点に立つまでの物語でしかありません。スター・ウォーズ新3部作になるのかどうかは、今後の展開にかかっています。だから言いたい、最終的な評価は次で決まる!シリーズをここで止めてはいけない!新しい夢はまだ始まったばかりだ!!

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