鈍-nibi-⑤【連続短編小説】
※前回の「鈍-nibi-④」はこちらから
私の、右耳の軟骨は宝物である。
気付けば秋になっていた。
本当は気付いていたけれど、気づかない振りをしていた。
夏の次には秋がきて、秋の次には冬が来てしまう。だから、夏のままでいたかったのだ。次はまだ秋だと思える夏のまま、ああ、冬が控えていると思うことのないよう、夏のままでいたかった。
秋の次、冬になり、年が明ければ私は結婚する。
2つ下の妹は、私と似ていて少し違う。
好き嫌いは似ているし、背格好も似ているかもしれない、顔立ちもそれなりに似ているし、いろいろな好みも似通っているように思う。
おおむね似ている。
姉妹だから。
違うのは、妹はまだ結婚しないけれど私は半年後に結婚すること。
私には、耳の軟骨に妹が開けてくれたピアスの穴があること。
そして、私は妹が大好きで、多分きっと妹もそんな私を愛してくれている。私はそれを分かっていて、妹はそんなことを知らないだろうこと。私の彼女への愛情は単なる姉妹の程度だと、彼女はそう思っている。
本当は彼女が思っているより、私は彼女を愛しているし独占したい、それはそれはどす黒い愛情を募らせているわけだが、彼女はそれを知らない。
彼女が生まれた時、私はまだ二歳だった。
二歳なんて、ようやっと『赤ちゃん』を脱して『幼児』に入ったばかりであり、自我も何もないだろう。けれど、私には自我よりなにより『リオ』を強く感じ取ったのだった。
生まれたての彼女を見て、私は大号泣したらしい。
その場にいた母曰く、まるで私がリオを産んだかのように感動と深い愛情を持った表情で私は泣いていたそうだ。
二歳の私にそのときの記憶はもちろんなく、うっすらと覚えているのはリオにぎゅっと強く握られた左の薬指の強さくらいである。
けれどきっとそのときに、私とリオは約束をしたはずだ。
私とリオは一生一緒に生きていくと。
だから、彼女が二歳になって、父親がテーブルに置きっぱなしにしていたたばこを誤って口に入れたときも、ようやく登れるようになった階段を踏み外したときも、いつだって真っ先に気付いて寄り添ったのは私である。もちろんそれ以降、彼女が大きくなるに連れて不運な出来事に遭遇した際には私が彼女を守ってきた。
私はいつだってリオを見ている。
最初こそ単なる姉の強い使命感だと感じていたが、どうやら通常の姉妹のそれとは程度が違うようだと段々と気づきはじめ、いつしかそれが愛であることに気付いた。
まさか自分が同性のそれも血のつながった妹を愛することになるとは。
気付いたとき、私は動揺したが、それ以上に興奮したことは隠さないでおく。
私は、妹を愛していると言う事実に改めて気づき、大変に喜んだ。
私は、リオを誰よりも愛している。
続 -鈍-nibi-⑥【連続短編小説】- 10月10日 12時 更新
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