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0610_生き続けている

 頭痛がひどかった。
 前日には早く寝たし、布団もちゃんとかけていた。風邪ではないと思うけれど、頭がガンガンと何をしていなくても勝手に響いてくれる。考えようとするとガン、とそれを打ち砕くようにして痛むのできっと仕事にならないだろうと、私は休むことにした。

 会社へ連絡し、再びベッドに戻った。窓の外は空が高く、曇っているのになんだか明るく見えるのだった。思えば、こんなふうにしてぼんやりと休むことが最近はなかったように思う。私は静かに目を閉じた。

 夢を見た。
 夢の中で私は会社の誰かと話をしている。私が相談をしているようだが、その内容まではわからない。ありがとう、とか言って誰かの元を去った。次には大学時代の誰かに会っている。また私は何か相談をしてはありがとうと言って手を振り別れた。その次は高校時代、中学時代、小学生と、場面が変わる。その誰にでも、私は相談をしていた。ありがとうと笑顔で別れるあたり、私の相談した何かは解決しているのかもしれない。でも誰に何を相談しているのか分からない。おかしなものだなと思っていると、目が覚めた。

「ママ、大丈夫?」

 中学生の娘が帰ってきていた。ベッドで寝ている私の様子を見がてら、水を持ってきてくれた。冷えた水を飲む。多少痛みのある喉を抜けて胃に落ちる。私の体の中を、水が通ったその道が冷たくて心地よかった。

「ありがとう」
「病院は?」
「熱はないし、頭痛だけだから行ってない」

 そう、と言って、娘は寝室を出た。
 私はまだウトウトとしており、夢と、現実に娘と話していることが、混ざり合っている。また会社で誰かと話しては、大学時代、高校時代······と続く。
 どうやら私は、相談をしているのではなく、その誰からも「大丈夫か」と、聞かれているようだった。そして、ありがとうと答えていたのだ。

 私は、過去を振り返るでもなく少し思い出しながら、大丈夫、ありがとうと伝えてまた眠る。なんとなく、私はちゃんと生き続けてきたのだなぁと思えた。

 寝入りばな、娘が私の手をぎゅっと握った。その感触が、まだ残っている。


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