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0529_晴れの日

 からりと晴れた綺麗な1日だった。

 晴れて綺麗であるのは空や天気だけではなかった。今日という1日は、私もからりと晴れていた。
 ちなみに、昨日までの1週間は全くの曇り空である。雨だって2日に1度降っていたし、雲が厚いから陽もなく、空はいつだってどんよりと暗かった。
 その全てが私の心と一緒だなんて思ってはいない。曇った1週間の中で少しも晴れなかったと言う日は無かったし、雨が振らない日でも私は泣くほどに悲しかった時もある。
 だから、天気と私の気持ちは同じではない。ただ偶然にからりと晴れた今日の1日が私とピタリとハマったのだろう。

 多分、幸せというのはこういうものではないか。

「おかえり」

 私が帰宅すると、夫が玄関まで駆けてきてくれる。私の目の前までくると、またにこりと笑って、おかえりと言った。
 私はただいまとは言わず、幸せと言った。

 鞄を置いて、手洗いうがいをする。顔を上げると鏡には私の顔と、その背後には夫やリビングの一角が写っていた。幸せが写っているのかと思った。
 そのまま、服を脱ぎ、風呂に入ることにする。浴室のドアを開けると湯気がもうもうとたちこめており、幸せが溢れんばかりなのだと納得する。
 温かなお湯に浸かると幸せが溶け出して、私はそれをもったいなく思い、慌ててかき集めては湯船に浸かる身体に寄せた。バシャバシャも湯が当たるたび、幸せが熱く、熱がこもった。
 風呂を出れば、ふぁんといい匂いがする。幸せの匂いとは確たるこれだと思っては、鼻の穴がピクリとした。

「いただきます」

 夫が言い、私は幸せと言った。

 食物を噛むごとに幸せが分裂し、飲み込んで胃の中に入る都度、私の体の中に幸せが溶け込んでいくのだった。

 少しして、眠気が出てきたのは、きっと幸せという薬を飲んだからだろうと思い、素直にそれに従った。

 布団に入ると、これもまた幸せな冷たさがあり、しばらくしてからじんわりと幸せが幸せになった。

 うとうとと幸せをしていたら、寝室の扉が開いて幸せが入ってきた。幸せに触れ、幸せを抱きしめて、私は幸せを閉じた。

 どうやら幸せにもたれてしまったようで、私は少し腹をさすった。

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