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0730_待ってる

 有名チェーンのファミリーレストランのボックス席の一角で、彼女は座っている。スマートフォンではなく、いわゆるガラケーをテーブルの右に置き、まるでなにかの連絡を待っているのだった。

「全ては無事に終わったよ」
「もう大丈夫」
「君を一番に愛していることにかわりはなく、それはこれまでもこれからも一緒だ」
「お腹がすいたね。いつものヤツを頼んでおいて」
「ああ、そんなに泣かなくていいよ」
「きれいな爪をしているね」
「あぁ、疲れた」

 彼からのなんのこともない報告や連絡を、彼女はずっと待っている。平日の18時、同じファミレスの同じ席で。それはまもなく2年が経つ。最初こそ、平日の同じ時間帯ではなかなか同じ席が空かず、いろんな席に通されたものだが、一ヶ月も平日に同じことをしていると、ファミレスのスタッフが気を使ってくれるようになった。それからは同じ時間に同じ席に座って彼を待っている。

 彼は、噂によると妻子を持っていた。彼女は当初それを知らず、そのまま彼を愛していった。
 彼女が彼を愛し始めたきっかけは些細なもので、残業しているときに缶コーヒーをくれたことだった。人付き合いの苦手な彼女は仕事の調整もなかなかにうまく行かず、どちらかというと仕事を抱え込んでしまっていた。そのせいで残業はよくあることだった。彼は別の部署にも関わらず、そんな彼女の姿をたびたび見かけていたらしく、ついに彼女に話しかけて缶コーヒーを差し出したのがそのときだったのだ。
 彼女は歓喜した。自分のことを見ていてくれる人がいるというその事実に。

 やがて、彼女は彼に恋をした。

 自分の気持ちを伝え、それは彼によって優しく受け止められた。仕事をうまく定時までに終わらせて一緒に夕食をとろうと、彼との最初の約束をしたのがこのファミレスである。彼女は翌日から定時に終わらせて、彼を待つことにした。18時になると、彼は少し気恥ずかしい顔をしながら、彼女の前の席に座る。遅れてゴメン、何を食べようか。そんな風に会話が始まり、食事をする。

 彼との関係といえばこれだけであった。
 それもたったの一週間の出来事ある。

 やがて、彼は退職したと彼女は耳にした。相変わらず人付き合いが苦手であった彼女は他の誰の話も聞かず、反対に誰からも話しかけられなかったのだ。だから、彼がいなくなったことに気づかなかった。

 おかしいな、仕事が定時で終わるようにちゃんと彼の仕事もわたしの仕事も調整した。取引先が無茶を言うのならそれを失くしたし、彼に流れる仕事もずいぶんと消去した。定時にはちゃんと終われるはずなのに。

 彼は未だに来てくれない。
 私はずっと待っているのに。

 ガラケーを、時おりパカパカとしては連絡を確認している。ガラケーは電源が入っていないのだった。
 まもなく、彼を待って3年目に突入する。

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★著者:あにぃ


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