見出し画像

0405_大丈夫

 ここにあったそれが、両の手の指の間をするするとこぼれ落ちている。同じようにしてほろほろと涙が落ちる。

 私の中で確実に何かを失った。

 多忙な日々に、不機嫌な彼らに、自分の無力さに、疲労に、悲しみに、私の中で何かが生まれて消えていった。
 それは愛であり、希望であったはずで、私はそれらを、ほぅっと落として、失くした。

「大丈夫?」

 声をかけてくれる彼女に、私は微笑む。

「大丈夫じゃないけど、大丈夫だよ!」

 また、ほろほろとこぼれ落ちた。
 何かが生まれてまた、何かを失った。

 私は頑張っていて、頑張りたくもないのに頑張っていて、誰かそれを知ってと思うのに、そう思う自分が愚かしく思えてまた、肩を落とす。

「大丈夫だよ!」

 また別の彼女が声をかけてくれた。

「良かった、ありがとう」

 私は笑う。そして泣いた。
 この時、失くしたものが見つかった。

 問わないで、伝えて。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
18時からの純文学
★毎日18時に1000文字程度(2分程度で読了)の掌編純文学(もどき)をアップします。
★著者:あにぃ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?