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0226_こんにちは青空

 薄く、途切れ途切れの雲が、空全面に広がっていた。そこに飛行機が一基飛んでいる。精巧なプラモデルのような小さなそれがどうにも心地よさそうに飛ぶ。

 さっき、5年付き合った男に別れを告げた。私は間もなく30歳で、彼は間もなく40歳だった。私は転職し、彼はこの6月に昇進予定である。私の親は隣の地域に住み、彼の親は今年に入って養護施設に入ることとなった。いわゆる嫁姑問題は起こり得ないし、例えば子供が生まれたとして、実母に手伝いをお願いできる環境にもある。全てにキリが良く、結婚をするにはおそらくベストなタイミングだったと思う。
 でも、私は別れることにした。
 私が告げたとき、彼はとても驚いていた。どうして、と言った。なにが、とも言っていた。別れる理由は、どうしても何もなかったので、私は返答に困ってしまった。会議で反対を示したくせに代替案がないような、そんな風に居心地を悪くした。

「好きな人ができたの?」

 彼がもう泣きそうな顔で聞くので、私は一層愛情が高まった。そんなものはいないと言うと、今度はあからさまに安心した顔を見て、やっぱり好きだなぁと思う。

「何もこれという理由はないんだけど、もう完成したなと思って」

 私はできる限り自分の気持ちを言語化して伝えたが、恐ろしく陳腐で笑いそうになる。

「完成って、なにが」
「······結婚する土台かな」

 口にするとおかしなものだった。けれど、私の事実である。

 この5年で育まれた私と彼との愛は現実のものだったし、偽りはない。その全てはいつか来る『結婚』に向かうためのそれだっただろう。でも、私はそれを土台作りと感じたのだ。その土台をようやっと作り終えた。完成。だから、はい、終わり、である。

「土台が出来たなら、ここからこそ本番なんじゃないの?」

 理解できないという顔で彼が言い、私はそれも理解できないという顔をして見せる。

「でーきた!って思って、私はそれで終わっちゃったの」
「そんなのは勝手すぎる。僕はこれから君と······」

 彼はそう言って、下を向いた。
 昨日の雨でできた水たまりがそこにあって、まるで彼の涙の池のように思えた。悪いことをしているなと思って、でも次の瞬間、明日は何しようと思って私はわくわくした。
 
 青空は広がる。

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