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トリスタンの「呪い」 ~ ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』

このトリスタンの「呪い」というMETの記事が非常におもしろい。
https://www.metopera.org/user-information/nightly-met-opera-streams/articles/the-tristan-curse/
ちょっと訳して抜粋してみる。

画像© 📸 Marty Sohl @ MET。2008年公演、 Deborah VoigtとBen Heppner。 

トリステンとイゾルデのタイトルロールは、非常に長い歌唱と演劇力が必要。そして頻繁に高音限界の音を大きなオーケストラ音を飛び越して響かせなければならない。特にトリステン(テナー)を歌える歌手が少ない。

ワーグナーは1859年に作ったこの作品を上演しようとしたが、テナーが70回のリハーサル後にギブアップ。1865年に初演したが、トリスタン役のLudwigが4公演後に突然亡くなる。

黄金時代としては1886年から20年ほど、Albert Niemannと Lilli Lehmannのペアー、およびjean de Reszke と Lillian Nordica のペアーが主演した時期、1935年から1941年のLauritz Melchior とKirsten Flagstadのペアー時代があげられる。

1904年には、テナーのErnst Krausが2幕後に舞台を降り、イゾルデのMilka Terninaが病気になりMarion Weedが代役となり、テナーがいないため、3幕の1時間半が飛ばされ、イゾルデの偉大なシーン、Liebestodでオペラの幕を閉じた。

1959年にはBirgit Nilssonという素晴らしいイゾルデを見つけたが、トリステン役のKarl Lieblが病気のためキャンセル。代役として2人と(Ramón Vinay と Albert da Costa)契約していたが、共に体調が悪く全幕を歌いあげることができなかった。そこで当時のMET総支配人Rudolf Bingはトリスタン役を、1幕はVinay、2幕はLiebl、3幕はDa Costaが歌うという苦肉の策を思いつき、Nilssonは3人のトリステンと歌った。

最近のよく知られたエピソードとしては、2008年のBen Heppner と  Deborah Voigtで予定されていた公演。3月10日の初日の前にHeppnerが病気になり、John Mac Masterが急遽トリスタンの代役で歌う。3月14日にはGary LehmanがMETデビューでトリスタンを歌ったが、3幕の途中でVoigtが体調を崩し、舞台を降りることに。カーテンが下げられ、ソプラノのJanice Bairdが急遽コスチュームに着替え、数分後にオペラが再開。3月18日の LehmanとVoigtの公演では3幕まで無事進んだが、Lehmanが横になっていた所のパレットが舞台の上部から下がってきてオーケストラピットに突っ込む寸前でプロンプターの箱で食い止められるという事故が起き、Lehmanは頭を打った。幸い怪我はなく、数分カーテンを下ろした後、再開。

8月15日に配信されたのは3月22日の公演。トリステンはアメリカ人の、ベルリンから飛んできたRobert Dean Smith。Voigtとのリハーサルはなし。公演の休憩中にステージの動きを学ぶ。次の公演はVoigtが体調を崩し、Bairdが戻ってきたHeppnerと歌い、最終日3月28日にやっとHeppnerと Voigtのオリジナルペアーで歌いあげ閉幕。

スタミナと卓越した技量が「トリスタンとイゾルデ」を最後まで歌い切るには不可欠。

テナーの3幕のなが〜いモノログは、2幕の息継ぎが難しく長くて高音が要求される愛のデュエットの後に来る。イゾルデは1幕で難しい「呪い」の曲があり、2幕でテナーと同様な課題がある上に極めて高い音が入る。非常に優れた歌手でも2幕と3幕共に曲を削ることがある。METで初めて全曲入れて上演したのは James Levineの指揮による1981年の公演だった。

The tenor’s protracted Act III monologue comes after the taxing Act II love duet, with its breathless tempi and long, held high notes. And Isolde has a difficult first act with the dramatic Curse, followed by the second act duet where she has the same challenges as the tenor, but with some extreme high notes thrown in. The solution, even for the best singers, has often been to make cuts in both Acts II and III.
~ Peter Clark, the Met’s Director of Archives.


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