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アン

「コーヒーのめない」
おっさんはそう言った。
「アン。俺コーヒーのめない」

あ、そう。
私は珈琲屋で働いていたから
さほど驚かなかった。
コーヒー嫌いな人。のめない人。
たくさんいる。
お店ではコーヒーのめないんですけど、って言いながら
のんでみたくて
豆を買いにくる女の子もいたから。

おっさんに珈琲をのませてあげよう!
おっさんに逢いたい理由のひとつに
珈琲が加わった。
ミルクたっぷり沈めた
ハンドドリップで
リストレットで
甘めの。淹れてあげたい。

真っ赤なトランクに
ドリッパーと
スマトラの豆、
ミルクをふわふわにするフォーマーも入れた。
ポトン。ポトン。
丁寧に。


それから月日が経ち
私たちは珈琲屋を巡ることになる。


時計台ちかくの北地蔵。
石山通り。
夜半の宮越屋。
神社のちかくの一軒家の喫茶店。
定山渓の小屋コーヒー。
空港の宮越屋も。


いつか。
俺とアンで仕事しようぜ!
俺は看板屋ともろもろ。
アンは珈琲屋をやる。
2人でやるの、楽しいぜ!

いぬを飼ってさ。

車内にはいつも、
ブランキージェットシティが流れてて
私たちは毎日そんな話をした。
ケンカも激しかった。
笑うとき、おこるとき、
いつも傍にいられたらいいのにね。
あと少しでお別れしなきゃいけなくなる。

 #ブランキージェットシティ

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