十年パンイチ
本文
10年前。
着るものをすべて奪われた。
厳密にいえば下着だけ残されてはいた。
しかし上に着るものがなければ、どこにも行けない。
熱帯ではそれほど酷ではないのがせめてもの救いだろう。
しかしながら、もう限界だ。
僕はもうすぐ死ぬ。
最近発見された病によって。
これが遺体のそばにあった日記帳の中身だ。
彼がいかに不幸な死に様を見せたかを物語っている。
しかし、いくつか疑問がある。
1つ、なぜ彼は10年間も何も着ずに生きることができたのか。
おそらくどう生き延びるかの知識/知恵を持っていたか身に着けたからだろう。
1つ、なぜ彼は既存の熱帯病にかからなかったのだろうか。
おそらく彼は免疫力が高かったのだろう。
1つ、なぜ彼は最近発見された病と書いたのだろうか。
おそらくあの地は圏外で、何の情報も得られなかったからだろう。
あの地で病気は発見されていない。
しいて言うなら新兵器の実験が行われたくらいだ。
彼は新兵器の犠牲になった。
それを知るすべがないのだから。
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