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Lab『架空の兄と開かれた扉』【お題文学企画「その日の天使」】

Lab『架空の兄と開かれた扉』

https://twitter.com/00_database/status/1422754907451387905

yo 評

神秘的な描写が続き、読みながら現実と幻想の境界が曖昧になります。この曖昧さがより架空の兄の神秘性を増し、夢を見ているかのような浮遊感を読者に与えているのかなと感じます。また、認知的ニッチ、存在論的パラドックスなど、専門的な用語が用いられている点にも、架空の兄の一種の神秘性を際立たせる効果があるように思われます。
宮原晃一郎の『虹猫の話』を思い出しました。虹猫は、お伽の国から飛び出し、雲の国で風の神のお祝いに参加します。そこに、貿易風に足を蹴られたとして起こった雷様がやってきてしまうのですが、虹猫が機転を利かせ、雷様を鎮め帰らせるという話です。この機転というのが、「相手の心を読む」ということで、虹猫は雷様の心を読み、雷様はそれに心腹したということです。
検討違いかもしれませんが、私はこの『架空の兄と開かれた扉』を『虹猫の話』になぞらえて理解しました。ここに出てくる<概念体>である架空の兄と虹ネコを同一の立場として考えることで、虹ネコが兄の死に絶望する若者へ一つの夢を見せることで、心を鎮めてやる、という。
本作では若者が最後、怯んだ兄を見て何を感じたのかは描写されませんが、彼が希望した「少しだけ見守る」という希望は叶えられているように思えます。それが一時的な夢であっても。
それは若者が、兄の死を自分なりに整理するための重要な一助となるのでしょう。

企画趣旨

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