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日本未公開! 布袋戲映画『聖石傳説』台湾ディレクターズ・カット版レビュー

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 いやはや数ヶ月ぶりの布袋戲記事更新です。え? しかも、聖石傳説の話は前したのにふざけんなって? いやいや、台湾のみで発売されたディレクターズ・カット版には、なんと日本版未収録の映像が20分もあるのです!
 というわけで、本記事は布袋戲映画『聖石傳説』をご存じの方向けに執筆しておりますので、ネタバレ配慮がございません。ご注意ください。

 さて「ディレクターズ・カット版? でも本筋は日本版とほとんど一緒でしょ? わざわざ台湾版買うなんてニッチねえ」とお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。私もわりと暇なことしたかなと思います。

 が! 聖石傳説をご覧になった方なら分かると思うのですが……敵の宇宙人「非善類」……正直ギャグキャラすぎませんでした?

「おいおい、お笑い芸人の原田あきまささんを非善類にキャスティングして、こんなふざけた翻訳入れやがって! 日本の配給会社め!」

 そんな気持ちに駆られた私は、「もはや原語版を確認するっきゃねえな!」と思って購入したのでした。ちょうど復刻されたばかりだったので、タイミングも良かった。出たばかりだからか、代行店でも博客來さんでも、お値段3千円弱(送料含めても4千円しなかった)なので、お手頃価格だ!

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 DC版聖石傳説では、冒頭の魔魁討伐→非善類の襲撃、オープニング映像、瑠璃仙境で話してる素還真と青陽子、ヒロイン・如冰との最初の会話、などなどの場面が日本版より尺を取っています。
 もちろん日本語音声などはありません。いつもの布袋戲ですね!
 それと、どうも日本版は元の版よりもいろいろな場面でBGMを追加しているらしく、音声的にさびしく感じる場面もあれば、落ち着いた感じが出てこの方がいいなと思うところもありました。

■非善類は、本当はなんと言っていた?

 これはちゃんとソフトが売られている作品なので全部書き出すわけにはいきませんが、比較のため原文からいくつか取り出してみましょう。

日本版非善類「クール! こりゃ生中継(ライブ)だ。すげー」
台湾版非善類「酷,有電視看了,真棒」

 おや?

日「ウアーオ! 残酷シーン!!」
台「暴力畫面」

 おやおや……出だしは普通に原文と日本語が対応していますね。

日「扉の鍵をサーチしろ」
台「一定要拔出仙鳥之腿」「腿,腿出現了」

 日台で微妙に台詞が変わってる場面。原文にはない台詞が追加されている箇所と、原文にはあったけれどカットされた台詞も所々あります。このへんは、字幕の尺とかいろいろな都合がありそうですね。

日「スターのお宅拝見」
台「好高級的住宅」
日「なんだこれ? まるでひからびたピザだ」
台「桌上那是什麽,圓圓的像披薩」
日「やったとうとう地獄谷についたぞ」
台「帥啊,我們是世界上最帥的男人」

 地獄谷のあたりまで見て気が付きました、非善類の台詞は日本の配給のおふざけではなく、原語からしてこのノリだったと!

※また、リプライで教えていただいたところ、非善類は基本的に流行語ネタの台詞をしゃべっていたそうです。日本版は忠実にそこを再現していたというわけですね。配給会社さん、疑ってすいませんでした!

■骨皮先生による拷問シーン

 さて、DC版には追加尺の他に、日本版では存在自体が抹消されたシーンがあります。非善類が地獄谷へ向かうシーンの前に、骨皮先生(剣上卿)が、謎の人物を拷問しており、これがまあ中々エグい。

霹靂剣蹤』に登場する六醜廢人という角色は、顔がただれて結構怖いのですが、ここで拷問されている「任消遥」は六醜先生をちょっとマイルドにした感じのお顔(※ただし血まみれ)。

 壁にも大量の血しぶきが残っていますし、相当激しい拷問を受けたようです。というか、犠牲者は彼一人じゃないようで……ここのシーンの導入、拷問部屋の一角には位牌が並べられ、そこに血まみれの頭蓋骨が置いてあるんですねえ。くわばらくわばら。

 ここからのシーンは、簡単な日本語訳も交えてご紹介。


骨皮先生「你作夢也想不到你會有今天吧,過去,咱是至交好友阿,沒想到,沒想到殺吾妻子,滅吾一門之人,竟是你這位好友」
    「このような日があるとは、夢にも思わなかっただろう? 私もかつての親友に妻子を殺されるとは思わなかった、我が一族を滅ぼしたのが私の友だとは!」
任消遥「你,你不如一刀殺了我吧」
   「いっそひと思いに殺してくれ」
骨皮先生「沒這麼便宜,……你生有雙眼,卻看不見道義存在,有眼何用」
    「そんなに簡単なものか。……貴様、両目があるが道義というものが見えておらんな。役に立たん眼だ」

 そのままロウソクの火で任消遥の眼を焼き潰す。無惨! ここで下男と共に拷問を見ていた娘は、たまりかねて止めに入ります。

如冰「爸親,殺人不過頭點地,這樣做,末免太過殘忍了」
  「とうさま、もうおやめください! こんなこと残忍すぎるわ!」
骨皮先生「住嘴!」
    「口をつつしめ!」
※「殺人不過頭點地」はことわざ《兒女英雄傳·第一六回》。
「我本待一刀了卻這廝性命,既是你眾代他苦苦哀求,殺人不過頭點地,如今權且寄下他這顆驢頭。」


 なんと骨皮先生、娘を平手打ち! 如冰は泣いて外へ飛び出して行ってしまいました。骨皮先生は後を追いかけます。

骨皮先生「如冰,是為父不好,每次想到妳的母親,妳的兄長之死,為父就無法自己,如冰,妳應該體諒為父的心情,我只剩妳這個女兒啊」
    「如冰、父さんが悪かった。お前の母親、お前の兄の死を思うたび、私はよくない父だと思う。どうか父さんの気持ちを分かってくれ、私に残されたのは娘のお前だけなんだ!」
如冰「爸親」
  「とうさま……」
骨皮先生「別哭了,将眼涙擦擦」
    「さあ泣くな、どうか涙をふきなさい」
如冰「是女兒失態了」
  「娘は粗相いたしました」
骨皮先生「妳別責怪為父就好」
    「どうかお前の父を責めないでおくれ」
如冰「爸親,在女兒的印象中咱的仇家好似只有八個,那個任消遥最後一人了,為何牌位卻有九塊,那有第九人是誰」
  「とうさま、娘が思うに、私たちの仇は八人しかいないようです。そして任消遥は最後の一人になりました。どうして位牌は九つあるのですか? 九人目は誰ですか?」
骨皮先生「妳不用問這麼多,回房休息吧」
    「そんなにあれこれと訊ねるでない。さあ、部屋へ戻って休もう」

 さて、心温まる親子のシーンですが、骨皮先生=剣上卿が聖石傳説の中で何をやったかと考えると、「いけしゃあしゃあ」と言いたくなる場面ですね。まあ、この時は本音だったのかもしれませんが。

 もう一つ注目したいのは、父は「涙をふきなさい」と言っている点。傲笑紅塵は、如冰の涙をぬぐわせるのではなく、綺麗な氷に変えて渡しました。そしてその氷が、最終決戦でも鍵となったのです。そこを踏まえると、なんだか意味ありげだなあと思いますね。

 なお任消遥さんは後のシーンで、鎖につながれて立ったまま内臓をまろび出しているカットがあり、どうやらそのまま惨死したようです。ひいい。

■その他の未公開シーン

 日本版と同時再生するなどして確かめられますが、微妙に追加尺がある場面の他、玄同玄徳という双子? と話してるシーンなどもありました。

 傲笑紅塵の庵で如冰が襲撃されるシーンの前では、傲笑紅塵が瑠璃仙境の池をバーン! と水柱立たせる場面もあり、未公開が惜しいこと。追加ふくめて全編の字幕ちゃんと読んだら、ストーリーの印象も変わりそうです。

 とはいえ、ある程度は日本語訳が既にあるから、私個人としては解読は他の未邦訳劇集に力を注ぎたかったりも……(※個人の感想です)。

 それと、カットされて一番無念なのは、青陽子の戦闘シーン!

 聖石傳説視聴済みの方はご存知でしょうが、青陽子は作中で死亡します。といっても、これは霹靂本家とは別の世界なので大丈夫! 青陽子は新しいフォーム(※霹靂公式の画像)を手に入れたり、ドラゴン型巨大ロボットに乗りこんだり、陰謀を巡らせたり、仲の良い友達?が増えたり(靜濤君)。

 そんな感じでピンピンしているからご安心だ!

 物語の終盤、大量の非善類を相手に奮闘する青陽子。二本も三本も刃物で刺されながら自分の魔琴に乗って空を飛び、足で演奏して敵を倒す!
 カットされたのは、尺の都合+血まみれすぎたから、かなあ。全体的に、日本未公開シーンは残虐度が高めの印象です。
 代行サイトでも「日本版ではカットされた暴力シーン」と説明されていましたし。暴力だけじゃないけどね!

■最後に

 さて、いかがでしたでしょうか、完全版聖石傳説。大筋のストーリー自体は日本版DVDで充分なのですが、東離劍遊紀などから布袋戲に興味を持たれた方は、日本版と台湾版を両方揃えることで、中文読解の入門にも使えると思います。霹靂本家の残虐度も、だいたいこのぐらいですしね。

 Netflixで配信中の日本語字幕つき霹靂布袋戲・刀説異數(WoD)も邦訳がある点で入りやすいのですが、こちらは「キャラクターが多すぎる」「大量の前提知識を要求される」という、初心者に厳しい作りとなっております。

 手前味噌ですが、そのへんは以前解説記事を書きましたので、WoDをご覧になる方はお役立てください。

『聖石傳説』は、霹靂本家の二話ぶんぐらいの尺でありながら、登場人物が絞られ、映画で一本のストーリーにまとまっている点が優れもの!

 ある程度「武侠もの」「中華ファンタジー」に慣れておいたほうがいいとか、素還真や魔魁や三教傳人って何? となるかもしれませんが、WoDの情報ハンマーに比べれば可愛いものです(比較対象が悪すぎる)。

 それでは、楽しい布袋戲ライフを!

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