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0524 日記

歯医者が怖くて仕方がない。
恐怖を誤魔化すためのクラシック音楽も、
異常な清潔感の空間も全て怖い。

そも、僕は人生で片手で数えるくらいしか
歯医者に行ったことがない。つい1年前までは、
自分の長所は虫歯が無いことだと宣っていた。
しかし、このアンチデンタル神話は
たった1つ前歯にできた黒い点で崩壊した。
アイデンティティの喪失に、本気で凹んだ。
でも、
しばらく歯科医の世話になることはなかった。
経験の少なさも、恐怖を増長させた。

親知らずのトラブルでイタズラ半分に僕を脅す
周りの人間によるプレッシャーから先週、
苦渋の決断で地獄へ足を運んだ。
そしたらどうだろう。
「親知らずは抜かなくてもいいよ。ただ歯のクリーニングはしようか。痛くないし、お金もかからないよ」
こいつ、敵じゃないかもしれん。
そう思いながら、浮き足立って次の予約をとった。

そして今日、
緊張と期待で変な汗をかきながら施術を受けた。
痛くないって言ったんだから、
痛かったら殺してやるぞという気持ちで耐えた。

やや痛かったけど、終わってみれば火もまた涼し。
頭は完全に勝利宣言でカーニバル状態だった。
ややあって、確認のため医者を連れてくると言った
看護師が戻ってきた。

逆恨みしてすまんな!お前らええ奴や!と
上機嫌な僕の歯を最終チェックした歯科が言った。
「クリーニングした結果、虫歯が見つかりました。」

頭が真っ白になった。昨日、会議用の資料が
直前でクラッシュした時と同じくらい動悸がした。

「逃げられますか?」
「早い方がいいですよ」
「痛いですか?」
「ちゃんと麻酔しますよ」

コイツ、前回は痛くないですと断言したよな。
これはクセとかじゃない。
完全にはぐらかされている。
ぎこちない笑顔で震える足を支え、
会計に向かった。
比喩じゃない、マジで震えてた。

会計の女はそんな状況も露知らず、
涼しい顔で次の予約日を催促してきた。

コイツら初めからグルだったんだ!
そんな気持ちで今はいっぱいだ。
今頃、
僕の恐怖を肴に華金を楽しんでいるんだろう。

次の予約は2週間後。
さっさと終わらせたかったが、
空き枠がないらしい。
周到に計画された、苦痛を長引かせる策の1つだ。

冷静さを取り戻すためにこの文を書いてはいるが、
冷静になればなるほど歯医者は悪くない。
妄想癖と責任転嫁で、
架空の悪を生み出してしまった。

でも本当に自分が悪いのか?
歯磨きはちゃんとしてる。
バカでかい口腔という才能も備えている。
数少ない歯医者経験ではあるが、
歯ブラシを褒められなかったことはない。

もう誰を責めたら救われるのかがわからない。
辛く苦しい、治療までの刑期だけが待っている。
明日の朝には、
この恐怖が抜けていることを願っている。

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