『孤独の印』オリジナル⑦

ヤバルの行かなかった方へ行けばたくさんの枝が見つかるに違いないと思ったのです。足の裏に音をたてる、細かい枝や落ち葉が、子気味良くユバルの中に流れてきました。
 山の奥へ、山の奥へと分け入っていくと、陽の光が柔らかく差し込む草原がぽつりと、山の中に浮かんで開けました。その先には竹林がありました。竹は互いにとても近くに生えていたので、なかに入っていくことが出来ません。竹林に沿って歩いていくと、山を下る道に出ました。草原を照らす光は、道の先も照らしています。
 ユバルの身体に日差しが注ぐと、温かく優しい気持ちが満ちていきました。草原を渡る風が光に乗って、ユバルの頬を撫でます。草原の向こうには、大きな石で作られたコの字型の門、入り口のようなものが立っているのが分かりました。その先は下り坂になっているようですが、暗くてよく見えませんでした。石組みの暗い大口からぬるい風が、勢い良くユバルの顔に吹き付けてきました。
 ユバルは怖くなって立ちすくんでしまいました。
 「ユバル!ユバル!」
 後ろから呼ぶ声が聞こえてきます。
振り返ると、光に照らされた森の道を進むメレクと、メレクについてくるヤバルと動物達が見えました。ユバルは風を忘れて二人の所へ走っていきました。
 元の所に戻ると、ヤバルは再び薪集めをはじめます。ユバルも真似して薪を集めようとすると、メレクがユバルに言いました。
 「ユバル、ユバル、離れて薪を集めてはいけないよ」
 「でもたくさん集められないんだ」
 「ユバル、たくさんでなくてもいいんだよ。君は君らしくしっかり仕事をしておくれ。君は焚き付けの細い枝をたくさん見つけてくるんだよ。頼んだね」
 メレクは彼をそう励ましますが、ユバルは身体を動かせば動かすほど、悲しい気持ちが溢れてくるのに耐えられませんでした。言葉にならない身体の悲鳴は、決して疲労や怠惰からくるものではありません。
 「お前は弟だから、何もしなくても大丈夫だよ。いざとなれば動物達をたくさん連れてくればいいんだから。」
 ヤバルは優しさから、ユバルにそういいましたが、ユバルの気持ちは晴れません。
 「ユバル、チラのところへいってお洗濯を手伝えるかい。」
 メレクがユバルに心を向けました。ユバルは、メレクに必要とされていないことを知って、恥ずかしさと悲しみで一杯になりながら、頬が揺れるのを感じました。そしてうなずいて山道を降りていきます。ユバルは涙が流れるのを止められませんでした。山道はぼんやり霞んで、拭っても拭っても霞みます。山道が小石に変わると、遠くで洗濯をしているチラが見えてきました。ユバルはチラのところへ行ってチラに抱きつきました。
 「あなたには、あなただけの素晴らしいところがきっとあるの」
 チラは慈愛の心から、ユバルを励ましますが、心には響きませんでした。

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