『孤独の印』オリジナル②

 第一章 黄味―きみ― ②

 その頃レメクは、山の中で薪を探していました。昼間なのに暗く肌寒い濃い森の、むせ返るような香り。風がそよいで、木々の枝葉を揺らすと、光が差し込みます。光のカーテンに一瞬、レメクは自分の腕よりも少し太いくらいの、細く伸びた木を見つけました。根元に鋭く、腕を振り下ろすと、鉈は木に挟まります。
 刃が取っ手から抜けてしまいそうだ。
 切り込んではグラグラと、切り込んではグラグラと。挟まった根元から鉈を引き抜くたびに、心配になりました。何度か切り込みを入れると、レメクは鉈を仕舞って、両手で揺らしました。根元が不安定な木を押したり引いたりしているうちに、パチパチと音を立てて木は向こう側へ倒れました。おじいさんは幹の先に広がる細い枝葉を間引いてから、幹を引きずって帰りました。
 途中、レメクは自分の頭よりもずっと太い倒木を見つけました。とても魅力的な薪ですが、彼一人では持ち帰ることもできませんし、たとえチラの助けがあっても無理だったでしょう。せめてもと思って、樹皮を剥がしてはカゴに、剥がしてはカゴに投げ込みました。黒々と太った幹は、数分で真っ白くなりました。ふと、なにかが動いた気がして足元を見ました。
たくさんの幼虫が幹の間から這い出ていました。
大小の、白や茶色の幼虫が、腐った幹の内側から、うじゃうじゃと這い出して来たのです。
 身体の内側を何かがゾクゾクと駆け上がるような感触を、レメクは覚えました……。
 それは、胸が張り裂けそうな喜び。
 今日はお腹が一杯になるまで食べることができます。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、幼虫達をむんずと掴んでは懐に入れ、掴んでは入れました。お腹の周りを虫達がうねうねと這い回るのを、レメクは愛おしく感じました。そしてチラのことを思い出しました。


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