『孤独の印』オリジナル⑥

 来る日も来る日も、二人は互いを喜びました。
 ある春の日、チラは双子を産みました。ヤバルとユバルです。
 ヤバルはメレクと一緒に山に行くのが好きでした。大きな木を二人掛かりで切り倒しては、両肩に担いで帰ってくるのです。チラはそんなヤバルを心から喜びました。豊かさをもたらす子だったのです。そしてヤバルには特別な力がありました。それは動物と友達になる力です。ヤバルが山に入ると、時々、動物と一緒に帰ってきました。カラスや鳩などの鳥達。四本足で歩く鹿やイノシシ。木の上で暮らす猿も大勢でついてくることがありました。ヤバルは、その中でも身体の大きいイノシシを特別に、家の周りで飼いました。はじめは家の土壁を剥がされたり牙に血を流したりしましたが、ヤバルの力で次第に穏やかになって、気がついたらイノシシ達は牙と毛皮を落としていました。
 一方ユバルは、取り柄の無い子でした。
 メレクのように何本も木を切っては家に運ぶ力はありません。ヤバルのように動物達を飼い馴らすことも出来ませんでした。いえ、取り柄がないどころか三人をしょっちゅう困らせてしまうことがありました。
音のする場所に着くと突然、ぼーっと立ち止まってしまうのです。
遠くに流れる水の音や風の揺らす木々のざわめきに、心地よくいつまでも一人、聞き入ってしまうのでした。
 チラを一人残して、三人で山に入って薪を集めに行ったときのことです。川の流れを辿って山に分け入っていきました。
 「さあ、薪を集めましょう」
 メレクの言葉に、ヤバルは手近なところから遠くのところまで、下を見て歩いては様々な枝を拾います。動物達はヤバルが森に入ったことに気がつくと、嬉しそうに走り寄っては、頬を足にこすりつけたり、周りを走り回って鳴き声をあげます。
 しかしユバルは一人でした。
 ヤバルのように枝を見つけることができません。ユバルに見えるのは手のひらよりも小さな細い枝ばかりです。
 ユバルは二人からどんどん離れて行きました。

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