割れた貝殻で指輪をつくったあなたへ
あなたがいなくなってからの5年間は長くて短かったように思います。
わたしの恋人が亡くなったのは10月1日でした。警察官でした。夜勤明けで疲れていたのでしょう。お風呂で寝てしまい、そのまま沈んで帰らぬ人となりました。わたしはお葬式には参列せず、お通夜の末席で静かに冥福を祈るだけにとどめました。あの人の傍に行くことはどうしてもできなかったのです。
いま思えば、わたしたちは恋人と呼ぶにはすこし違う関係だったのかもしれません。一緒に過ごすことが恋人なのであれば、きっとわたしたちは恋人ではなかったと思います。お付き合いを始めたのは19歳の頃で、あの人はわたしより4つ年上でした。人生に迷い、葛藤して、どうしようもなく悔しくて泣きながら新宿南口の階段で座り込んで一夜を過ごそうとしていたわたしに声をかけてくれたのが、あの人でした。
キスをしたり、
抱き合ったり、
手をつないだり、
そういうことはなにひとつなかったけれど、ときどきさりげなく「好きです」と言うだけの不器用で照れくさい恋愛が、わたしたちは心地よかったのです。
最後までわたしはあの人のことを「さん」付けだったし、敬語でした。週に一度か二度、電話で話すだけで、会うのは月に一度あるかないか。会っても特別会話が弾むわけでもなくただお互いの空気を感じながらご飯を食べるだけでした。どこが好きなのかと尋ねたら「顔」とあの人は答えたし、わたしも「顔」と思ったので、本当におかしかったです。だったら毎日会って顔を見ればいいのに、わたしたちはそうしなかった。お互いの将来と人生の目標を尊重して、どちらかの人生に入り込むということをしなかったのです。
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