トレッキング_夏3

その人の時間

前のお仕事をしてる時にわかったことなんだけれど

私は人が怖くない。

むしろ、好き。はじめましての人とお話しするのがめっちゃ好き。

怒っている人もあまり怖くない。初めからケンカ腰の人やキレてる人は怖いけど。

話しかけるのも好きだから、時々「あ、ウザがられてるわ(笑)」と思うこともある。でもまた、そういう気配が読めるってことなんだろうなと思う。

「今日はこんなお客様がいるかもしれない…」は、人にとってはマイナスなイメージかもしれないけれど、私にとっては一日の機動力になる。


そんなわけで、接客業はたぶん天職なんだろう。


今は縁あって「ガイド」というお仕事を中心にしているけれど、レストランや喫茶店のホールであろうが、ホテルの受付であろうが、お客様のご要望を聞いて、その人の時間を気持ちよく過ごしてもらえるようにするのが好きだ。


もちろん事務仕事や営業職も経験をしたことはあるのだけど、ストレスのたまり方は半端なかった。営業職は初めての方と会って売りたいものをPRするという意味では(もちろんそれだけではないが)楽しかったけれど、「その人の時間をコーディネイトする」というものではなかったので、やっぱり向かなかったみたい。

でも「その人の時間を大切に考える」っていうのは、どんな仕事であってもこれが根底にないとダメだと思う。その上でコーディネイトしていけるのが「接客のプロ」ということ。


時々お声掛かりがあって行う接客研修でよくお話ししているエピソードがある。


深夜近くにある仕事が終わって、どうしてもおでんが食べたくて立ち寄ったコンビニ。飲み物とおにぎりを物色してカウンターへ。店員は品物の補充をしていた。

「すみません、おねがいします」

と声をかけて、さ~て、おでんは何を…と鍋をのぞきこんでいると

バン!

とけたたましい音で入り口の戸を叩きあげ(上げ下げして出入りするタイプのあれです)カウンターに入ってきて、聞こえよがしに「はぁ~~」とため息をついた店員。

やな感じだな、と思いつつも「おでんお願いします。えっと、大根と玉子とと、、、牛スジありますか?」と言ったら店員は語気を荒げて「見えてるものしかありませんっ!!」。

この時点でなぜ「じゃあいらないです!」とおにぎりも飲み物もカウンターに置いたまま帰らなかったのかというと、田舎ゆえにコンビニがそこしかなかったことと、食欲がそれに勝ったからです!

・・・ああ、私の無限の食欲がのちの後悔を産もうとは・・・。

鍋に悲しげに浮いていた 半分煮崩れしたはんぺんを追加してお会計して店を出た。

もちろん「ありがとうございました」の言葉もなく。

ムカムカした気持ちで車に乗り、家にたどり着き、おでんのふたを開けた瞬間に、さっきの店員のおっちゃんの顔と態度がよみがえり、なんだかとても惨めな気持ちになって、味のしみ込んだおでんも味のしないものになってしまったのでした。


深夜のワンオペ、品出しで忙しかったのかもしれないし、たまたま虫の居所が悪かったかもしれないけれど、それを客にぶつけるってのはダメだし、何より家に帰ってからの疲れをとるための時間が、おっちゃんの不快な態度と声がちらちらする最低のものになってしまったという話。

普通の態度でいてくれよってんじゃなくて、明るく対応しろっていう話でもなくて。

たった一回の対応が、その人のそのあとの時間に影響するんだぞってことだ。


働いていたテーマパークでは、なによりお客様の時間を大切に考えていた。

言葉にしなくても、代々スタッフには伝わっていく。

ただお客様を見ていれば分かった。

朝 駐車場に入ってくる東北や九州のナンバーの車。

子供たちを遊ばせて近くのベンチで仮眠をとっているお父さん。

落とし物として拾った、分刻みでびっしり書き込んである1日のスケジュール…。

ああ、この人たちはみんな、今日のために何日も前から、もしかしたら何年も前から準備して、楽しみに来てくれたんだろうな~。

そう感じたら自分の仕事に手抜きはできない!その人が過ごす今日一日には、ここに来るまでの何日もの時間が掛けられているのだから。


それは今、この観光地でお客様をお迎えするあらゆる仕事についても同じなのだ。

距離的には本当に遠くて、いつまた来られるかわからない。もしかしたら2度とないかもしれない。

いらして下さったとしても、同じ人とではないかもしれないし、目的も違うだろうし、迎える側の状況も違う。


接客の仕事の基本は「今目の前にいる人の<時間>を大切に考えること」


これに尽きる。


それさえ忘れなければ私は、体力の尽きるまで、この仕事に携わっていけると思う。


#私の仕事 #接客 #ガイド #研修講師

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