相変わらずな生活:博士の普通の愛情
メール1
久しぶりです。東京はどうですか。
こちらは一面、雪景色です。圭太くんが来てくれて家の雪下ろしをしました。もう雪なんて忘れちゃったかな。東京はあまり降らないよね。私はちょっとした病気をして、二日だけ近藤病院に入院しました。たいしたことはなくて今は元気なんだけど、こういうときに光一がいてくれたらうれしいなと思った。
今の状況ではお正月も帰ってこられないよね。まあそれまでも帰って来なかったけど。
車の調子が悪くて、新しいのに替えました。あれには光一との思い出もあるし気に入ってたんだけど、新車も快適です。燃費もいいし。そうそう。圭太くんのところに二人目の子どもが産まれました。
仕事が忙しいと思うけど無理をしないように。風邪をひかないように。
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メール2
久しぶり。
病気だったのか。大変だったね。近藤病院って近藤が継いだんだっけ。懐かしいな。近藤とはよくツーリングに行った。高田商業の前の道でコケたことがあって、あいつは手首を骨折したんだよ。俺が家まで送って行ったんだけど、家が救急病院だから便利だなって言って笑ってた。
今年も帰れない。31日まで仕事だし、年明けの4日に提出するものを休みの間に仕上げなくちゃいけないから。本当は俺も帰りたいんだけどね。
教専寺の横に住んでたゲンちゃん、憶えてるかな。この前、六本木でご飯を食べていたら会ったよ。変わってなかった。
今度、新しいチームに入って仕事も前より難しくなった。今がんばらないと置いて行かれるってひしひしと感じる。プレッシャーがすごいよ。
じゃあね。
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メール3
近藤くんが骨折して運ばれてきたとき、私もいたよ。憶えてる。
仕事、忙しいんだね。私は相変わらず、何も変わらず。生きてるか死んでるかわからないような暮らしだよ。子どもの頃から行動範囲は何も変わっていないし、話す人もずっと同じだし、年寄りは死んで、友だちは子どもを産む。私だけがそれに参加してない。
ゲンちゃんも確か、東京に住んでるんだよね。でもたまに帰ってきます。幸楽苑だったかケンタッキーだったか忘れたけど、半年前くらいに会った。
光一はもう帰ってこないのかな。
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メール4
来年、もし状況が落ち着けばシンガポール勤務になるかもしれない。今のチームの成績次第だけど。ここが正念場だな。
みんな誰でも「相変わらずな生活」をしてるものだよ。他人のことはよく見えるし、相手からもそう見えてる。
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メール5
昨日、Facebook見たよ。
今年はあまり忘年会をしないようにっていう世の中の風潮だけど、けっこういろいろやってるんだね。お洒落なお店で。綺麗な人、たくさん周りにいるんだね。会社の人かな。
シンガポールって転勤したらけっこう長く行くんだよね。私も遊びに行ってみたいな。行ったことないし。
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メール6
わからないと思うけどさ、夜どこかに行くのも仕事だったりするんだよね。一緒にいるのも男女問わず仕事の仲間だから。綺麗な人とか、そういうんじゃないから変な詮索をしないで。イライラする。
シンガポールは現地の法人が立ち上がったばかりだから、軌道に乗るまで最低でも3年はいることになると思う。
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メール7
気を悪くしたらごめん。詮索したりしたかったわけじゃない。
遠いね。シンガポール。でも東京でも会えないことに変わりはないから同じか。
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メール8
昨日、ゲンちゃんと会った。俺のことをいろいろ聞いていたみたいだけど、そういうのはやめて欲しい。俺たちふたりの間のことを他の人に話さないで欲しい。地元にいるとわからないと思うけど、俺とゲンちゃんにもデリケートな関係がある。
「彼女、さびしがってるから帰ってやれよ」と言われて、すごく嫌な気分になった。あいつにそんなことを言われる筋合いはないし。
どちらにせよ、監視みたいな真似をするのはやめて。
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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。