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裏話を書きます:博士の普通の愛情(無料記事)

今日はTwitterのspacesで嶋津さんと、この「博士の普通の愛情」の話をした。苦手な恋愛の話が書けるのかを試すために始めたんだけど、やはり苦戦する。出会い、別れ、再会、どんな題材でも古今東西にすでに膨大な名作があり、何を書いても「どこかで聞いたことある展開だな」と思われてしまう。

時代によって様変わりしている部分もある。『ロミオとジュリエット』は家同士の確執だし、『ローマの休日』は身分の違い、『モーリス』は1900年初頭には認められていなかった同性愛を扱っている。その頃と今では事情が違うといっても、報われない恋が永遠のテーマであることは間違いない。知り合って、すんなりと結婚して家庭を築きました、だとドラマにならないので、そういう幸福さは「新婚さんいらっしゃい」に任せておく。

死、難病、災害・戦争などによる離別、記憶喪失、SF的な悲劇、設定はいくらでもあるのだろうが、結局のところ、くっついた離れたしかないのだ。

「ではどうやって書いているのか」という説明を嶋津さんにした。まず、Google ストリートビューを開き、自分が行ったことのない場所を探して主人公の生活圏を決める。たとえば、浜名湖のあたりに目が行く。

浜名湖は海と繋がっていて地形が面白い。海側、湖の西側に「新居」という町をみつけたのでここに決める。静岡県立新居高校があり、関門大通りを挟んで目の前に新居文化公園がある。主人公はこの高校に通っている。学校の帰りに公園でおしゃべりをするだろう。公園の中には湖西市立新居図書館があるからそこも誰かと出会う印象的な出来事の舞台になるはずだ。

公園から関門大通りを駅に向かう。関門橋を渡り、301号線の道路にT字型にぶつかると東海道本線・新居町駅がある。駅前にはデイリーヤマザキがあり、ラーメン「とんとん」がある。部活帰りの男子はおそらくここか「印度屋キッチン」に寄る。こうして撮影時のロケハン・シナハンのようなことをして物語が生まれていく(ロケハンとシナハンはどちらも和製英語で、ロケーションを決めること、シナリオのヒントになりそうなロケ場所を探すこと)。

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すべてが実在する場所だから、もし新居町に住んでいる人がこれを読んだら驚くと思う。以前、九州を舞台にした話を書いたら「九州出身なんですね」と言われた。そんなことはない。だったらアンドロメダ星雲を舞台にしたSFや三国志を書いている人はどうなってしまうのだ。

何も考えなくても町の様子がリアルに目に浮かぶと物語は勝手に進んでいく。「新居」という地名は、その言葉をダブルミーニングで使えると思って選んだ。実際の土地を調べるのは、地形に「破綻」があるからだ。頭の中の想像だけだと貧弱で凡庸な舞台装置になってしまう。高台に学校があって神社があって海があるロケ場所は見たことがあるから、どのみち三部作っぽくなるし、実際に都内にあったんだけど「葬儀屋のとなりに焼肉屋」というようなアクロバティックな立地は絶対に考えつけない。

面白くないのは、地方都市の駅前などがどこも画一的になってしまっていること。パチンコ、イオン、マツキヨ、ドトール、そういうチェーン店ばかりだと無個性になる。ヨーロッパの街はチェーン店が少なく、ずっと変わらない個人商店があるから好きなのだ。何年後に行っても同じ店があり、ちょっと外装が綺麗になっていて、数年分だけ歳を取ったおばさんが迎えてくれる。もちろん向こうは憶えてはいないんだけど、こちらの記憶とぴったり一致するのがうれしい。パリなどは50年前の地図でも7割くらいの店に辿り着けるんじゃないかとすら思う。

浜名湖ではもうひとつくらいトリッキーな場所を選びたい。浜名バイパス沿いに「JOYLAND」というのがあった。ゲームセンターかボウリング場かと思ったのだが、写真を見てみるとラブホテルだった。これはちょっと直球過ぎるからやめておく。新居漁港か、砂揚場を選ぼう。

ラーメン「とんとん」の名物はタンタンメンだとか、今の関門橋は平成3年にできたとか、ストリートビューで年代を遡って見ていく。以前、別な店があった場合はそれも大事な情報になる。

というように(全部じゃないけど)書いたりしております。今回は裏話なので無料記事です。

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恋愛に関する、ごく普通の読み物です。

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多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。