見出し画像

宗教戦争:Anizine

以前、知人の食事会に行ったときに面識のない人が数人混ざっていたことがあった。知らない人と会うことは楽しく、世界が広がるし、今までもそうして知り合った大事な人々と長い間仲良くしてもらっている。でも自分が呼ばれて出かけて行く集まりの中に「圧倒的に宗派が合わない人」がいることがある。これが辛い。

そのときは写真の仕事をしている人が主催していて、会場には昔から知っているアーティストや雑誌の編集者などがいた。彼らに会うために行ったのだが、たまたま誰かの知り合いで呼ばれた人の中にひとり強烈な人がいた。彼は40代後半だっただろうか、業種は忘れたが自営業で手広くやっている人だと聞いた。聞いたというか、出席者全員に自分で説明していた。

最初からこの人とはできるだけ離れた場所にいようと決めていたのだが、主催者が彼を連れてきた。

「この人はカメラマンのアニさん」

そう紹介されるとすぐに3枚の名刺を渡してきて、にこやかな顔で言った。

「カメラマンっていうと、AVとか撮ってるの」

俺は初対面からこの距離感で来る人が苦手だし、そもそもよく知らない相手の職業をネタにして「面白いことを言ったでしょ」という笑いのセンスも好きではなかった。俺のことをよく知る主催者は、こいつマズいことを言ったな、という顔をして、彼と俺の顔をテニスの審判のように交互に見ていた。こちらも他人が主催する会で空気を悪くする気もないので軽めに無視していた。すると彼は名刺の肩書きを説明し始めた。

決めつけはよくないけれど、この「宗派」の特徴的なポイントを網羅している典型的なタイプだった。地域の振興会、自民党後援会、怪しげな健康食品販売、そんな名刺が必要かと言いたくなるイタリア車のオーナーズクラブ、それらが目の前にシャッフルされる、俺のルールのポーカーで言えば「ブタ」のカードを、彼は「すごいですね」と言って欲しいようだった。俺は幼稚園児にもわかるくらい興味がない顔をしていたはずだが、彼は説明をやめない。

「アニさんはお洒落な写真を撮っている人だから」

主催者のそのフォローもどうかと思ったが、俺のステンレスみたいな目に、いたたまれなくなったのだろう。

「ああ、そう。こういうところに集まる人ってお洒落で意識高い人なんでしょ。皆さん偉い偉い」

その言葉を聞いたとき俺はその場を去った。

ここから先は

495字

Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。