過去の残骸:博士の普通の愛情
ねえねえ、男女の友情って成立すると思う?
一番嫌いな話をするタイプだね。きみは。
暇つぶしだから、いいじゃん。
いいけど。二度と会うこともないと思うし。
毎月やっている友人の集まりで隣に座った女性との会話である。俺は恋愛についての話が苦手だ。初対面のやつのことなんか何も知らないし興味もない、そして知り合いだと逆に生々しい。どっちにしても恋愛の問題を話す相手なんて存在しないのだ。
ねえ、成立すると思う?
どうだろう。どっちでもいいよ。
どっちでもいいって、優柔不断だね。
そうじゃないよ。まったく興味がないんだ。
へえ。つまんないの。
俺はちょっと頭に来た。犬が苦手な人に、「どの犬種が好きか」と聞くことに何の意味があるんだろう。偏見ではあるんだけど、恋愛の話が好きな人にはこういう無神経なやつが多いと思っている。
私は男女の友情は、あると思うな。
じゃあ、それでいいんじゃない。
興味がないとは思うけど、続けるね。
どうぞ。
彼女が話したエピソードは、誰のこととは言わなかったけど、たぶん自分の体験なんだとわかった。男の友人から好意を伝えられて断ったが、今でも変わらずに仲良くしているという、どこにでもありそうな退屈きわまりない話だった。
俺が思うに、それは、男性の保身だよ。
保身?
男は断られたことにショックを受けていると思われたくなくて、何もなかったようにがんばって友人を続けようとしているだけなのさ。
それくらい私にだってわかっているわよ。
わかっているんだったら、どうして友情だって言えるの。
あんた、恋愛もわからなければ、友情もわかんないのね。
どういうこと?
友情ってね、そんなに「清潔なもの」じゃないのよ。
ほう。
損得や、プライドの維持っていう面があったりするわけ。
初耳だな。
幼稚なのね。
そうかもしれない。
彼女が言うには、清潔すぎる友情は恋愛に近づいて行ってしまうそうだ。だから、「心の中に恋愛感情を隠し持った友情」だってある。それを含めた男女間の友情のことを言っているのだと。なるほどね。それならわかるような気がする。
あんた、リエさんのことが好きでしょ。
急だな。
リエというのは俺の友人の彼女だ。もちろん俺はリエに好意を持っているけど、それが今日会ったばかりの人にも伝わってしまっているのか。気をつけなくちゃ。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。