博士の普通の愛情:珍しい人
ある友人に呼び出されてカフェで話した。彼は8年ほど同棲していた彼女と別れたのだという。
「そうか。それは残念だったね」と、くだらない慰めの言葉をかけた。くだらなくてもいいのだ。沈黙よりは。
俺は数年前に一度だけ彼女と会ったことがある。食事に行こうと友人を誘うと、「彼女も連れて行っていいか」と聞かれた。もちろん大歓迎だった。数年つきあっていると聞いていた彼女がどんな女性なのか、興味があった。
友人の家の近所の庶民的な焼き肉屋さんへ向かう。彼は大きなテーブルでひとりビールを飲んでいた。「今、仕事が終わったみたいだから、もうすぐ来るよ」と言う。しばらくして店のドアが開くと、客の全員が彼女を見て固まった。
テレビでよく観る人だった。
「こんにちは。アニさんの話はよく聞いてます」と言って自己紹介をした。名前なんか、こっちは言われなくても知ってる。撮影が終わって着替えてきたのだろうが、髪をまとめ、ごく普通のグレーのスウェットを着て、まるで犬の散歩かゴミでも出しに行くような格好だった。しかし、普通の人とは違うオーラを出していることは明らかだった。
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。