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シモキタへ:Anizine

笑うことは知識だと思っている。

たとえば渋谷からタクシーに乗って「新宿駅まで」と言ったとして、運転手のおじさんが「じゃあ大宮経由で行きます」と言ったら、客は「なんでやねん」とツッコむだろう。これが面白いか苛つくかはさておき、「渋谷から新宿への経路に大宮はあり得ない」と知っていなければ、笑うことも怒ることもできない。だから笑いと知識は大きく関係している。

「シモキタの駅前まで」と言って「私、青森出身なんですよ」と返されたときも同じだ。この場合はつまらないボケをかますドライバーだけでなく、乗客にも落ち度がある。下北半島は正式名称だが、下北沢は下北沢と言わないといけないのだ。どうでもいい話だけど。

笑いにつきものの誤解は、くだらないことを言って笑ったり笑わせたりするのは下等だという過当な思い込みとともにある。先の例からわかるとおり、正しい情報を知識として持っている人だけが「笑う」ことができるのだから、笑うことは高級な精神活動だと言える。

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若い頃、筒井康隆さんの小説が好きで読んでいたが、あらゆるところに仕掛けがしてあった。それを面白がって笑っていたときに感じたのは、ダジャレになっている場所に反応して笑っている自分に「見逃しているところ」があるかもしれないと気づいたときの恐怖だ。つまり自分が見逃したり笑えないのは元を知らないからだ。『ロバート・ツルッパゲとの対話』の中で一番わかりにくいオヤジギャグは「節穴パティッツ」というやつだと思うんだけど、これはドイツ人モデル、タチアナ・パティッツを知らない人には何のことかわからないだろう。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。