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鹿の絶命:Anizine

よく「こんな夢を見た」などと書く人がいるが、そんなことに赤の他人が興味を持つと思っているんだろうか。たとえばさっきこんな夢を見た。

ウィーンの鉄道の駅でタバコを買おうと思った。銭湯の番台っぽい高さの不思議な店に、手塚治虫の漫画に出てきそうな60代前半のオヤジが座っていた。

「マルボロのメンソール」と言うと、大理石のカウンターに置かれた箱を指さした。女性が吸うような細いタバコだったし角が潰れていた。「これじゃなくてマルボロのメンソール」と言うとまた違うタバコを置く。やや声を荒げて同じことを言って、やっとマルボロが出てきた。冷たい乳白色のカウンターにちょうどの金を置き、オヤジからひったくるようにタバコを奪い取って、独り言のように小さく「まったく、バカかよ」と捨て台詞を残した。

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歩いていると正面の鏡に、カウンターの狭い出口からオヤジが出てくるのが映って見えた。鬼のような顔をしていて、手には青黒い80センチくらいの日本刀か西洋の剣みたいなものを握っている。危ない。

駅のホールを全速力で走るが、オヤジは意外と機敏に追いかけてくる。殺されるのではないかと感じた。走りながら振り返ると、彼はこちらに向かって思いきり剣を投げつけた。走る俺のすぐ横の大理石柱に柄がぶつかって跳ね返り、オヤジは器用にまたそれを掴んで追いかけてくる。あんなものに刺されたら死んでしまう。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。