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アポロシアターとYMO:Anizine

本人がこれを読んでいるだろうから、覚悟して書く。

渋谷の路上で声をかけられて振り向くと、若い頃の友人だった。彼とはどうして知り合ったか憶えていないし別の学校だったのだが、藤沢や茅ヶ崎で毎日のように遊んでいた。「中学生の娘ふたりと女房と連休だから東京に来たんだよ」という。今は奥さんの地元に住んでいるらしい。

奥さんたちはH&Mに買い物に行くと言うので俺たちはホテルのカフェで少し話すことにした。懐かしさが徐々に消えていく。「こいつ、こんなにつまらないやつだっただろうか」と感じ始めた。高校生の頃、YMOがいかに素晴らしいか、ハーレムにはアポロシアターといういけてる場所があるんだぜ、などという俺が知らなかった多くのことを彼から学んだ。しかし本当に言い方が難しいのだが、目の前にいる50代になった彼には何の興味も持てない。もしも今、初対面として紹介されても俺は二度と会う気はしないだろうと思う。

何という理由もなく疎遠になり、ほとんど会わないまま40年くらいの月日が経った。若い頃の友人なんてそんなものだ。勿論そいつも俺も体のすべての細胞が入れ替わるように変わったはずだ。お互いに頭は禿げてるし、その頃と比べると体重もふたりあわせて60キロは増えているだろう。そういう物理的に増えたり減ったりするもののことはどうでもいい。問題は互いに知らない、「40年をどう生きてきたか」だ。

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彼は数年前、共通の友人のFacebookアカウントを辿って俺を見つけたという。noteも読んでいると言っていた。そして俺が今どんな日々を送っているかを知ったようだ。彼は26歳くらいまで東京で編集者みたいなことをしていたという。そうだそうだ。その頃に確か一度だけパーティで会ったことがある。俺の知り合いの集まりの中に彼がいて、俺は時間がなかったので、懐かしいなと言っただけで別れた。連絡先もわからなかったからそれきりだった。

あとから友人に聞くと、俺が帰ったあとに彼はパーティ会場で俺の名前を出して、誰彼構わず編集の仕事はないかと営業をしていたらしい。久しぶりに思い出した記憶もあまりいいものではなかった。彼はそれから奥さんと知り合って結婚し、山陰地方の街で暮らしているという。静かなカフェに響き渡る、「アイスコーヒーが1200円ってどういうことよ」というガサツな声。

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Anizine

¥500 / 月

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。