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正のルッキズム:Anizine

「ルッキズム」という言葉を聞いたことがないという人に出会った。時代とともにたくさんの表現が生まれているから、すべてを追うことは難しいとわかっているが、どうやってその言葉に関する話題をかいくぐってきたのだろうと不思議に思う。

聞いたことがなければ、それが「過去には容認されていたが現代では避けるべき」という認識も生まれないはずで、だからその人は容姿に関する冗談を言う。面白くない冗談を。

おっさんというのはいつの時代も自分より年下に媚びたり説教をしたりするから基本的に嫌われるものだ。若者が一人暮らしを始めて父権的なものから独立したと思えば、会社には課長や部長が待ち構えている。ただ人が替わっただけだ。彼らから聞く不平や不満は、仕事をおぼえる上で怒られることではない。

おっさんは人との距離感を間違える。「ユミちゃん、最近可愛くなったね。彼氏でもできたのかな」昭和なら何の問題もなく見られた職場の会話だろう。しかし、それまでもずっと若者は我慢していたのだ。心の中では、「うるせえよジジイ」と思っていた。それを解放するためにルッキズムというわかりやすい言葉で助けようとしているのに、当の本人がその言葉を知らない。

「これって、セクハラになるの」

と聞くおっさんがいる。わからないなら、いや、わかっているのなら言わなければいい。おっさんのエゲつないセクシャルな言葉に甘んじて我慢していたのは彼らが上司だからで、つまり同じ土壌から生まれたパワハラである。モテない映画監督などが「自分の映画に出してやる」と言ってセクハラしたりするのはみっともない。田舎臭くて、カッコ悪いのだ。

先日、ある中小企業の経営者が畑違いのアート事業を始めると聞いて不思議に思った。本業とはまったく関係ないしアートに興味があるようでもなかったからだ。たまたま行った展覧会で若い女性アーティストに会って気に入ったので、その女性が主催する事業にお金を出すと言ったらしい。女性アーティストは自分の事業を理解してくれたのだと思って感謝したが、それに投資するには「自分の愛人になるのが条件だ」とはっきり言われたという。田舎臭くて、カッコ悪い。

さらに、自分はそういうことに気をつけていますよ、という人でもあまりわかっていないのが「正のルッキズム」だ。ここから先はメンバーのみで。

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Anizine

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写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。

多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。