『夕食の朝食』後編:博士の普通の愛情
私は宇都宮の駅にいた。母が用事があるから帰ってこい、としつこく言うので仕方なくここに立っている。
生まれ育った街を純粋に愛している人が羨ましい。羨ましいのかな。意地の悪い自分は、本当はそう思っていないはずだ。何も変化のない居心地の良さとちょっとした窮屈さに肩まで浸かっている人々を、心のどこかで見下しているんだろうと思う。
東京で一人暮らしを始めてしばらくして、私は自分がそう思っていることを人から指摘された。相手は年下の女の子だった。
「カンナさんって、自分の真ん中のあたりに空洞があるよね」
「え」
相手がどれだけ年上であってもまったく敬語を使わない子だった。最初はそれに驚いたけど、なんというかそういう振る舞いが都会育ちの子っぽいのかとも感じた。
「カンナさんは目の前にいる人と、外側でしか話さないじゃん」
「どういうこと」
「空き箱と話してるみたいだよ。話は合わせてるけどさ、相手の言ったことを繰り返すばかりでたとえ意見が違っても反論しないし、人から嫌われないような種類の笑顔だけ作ってる」
年下に言われるにしてはすごく嫌な言葉だし、自分でも心当たりがあったからもっと嫌だった。
「どうすればいいと思う。私はもっと中身を見せた方がいいのかな」
「中身、あるんだ。知らなかった」
多分、俺の方がお金は持っていると思うんだけど、どうしてもと言うならありがたくいただきます。