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写真の部屋

人類全員が写真を撮るような時代。「写真を撮ること」「見ること」についての話をします。
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2023年6月の記事一覧

依頼主は何を基準にするのか:写真の部屋

先日、仕事を依頼されたクライアントから「なぜあなたに頼もうと思ったのか」を聞く機会があり、あまりないことなので驚きましたが、貴重な意見として受け取りました。我々フリーランサーはフードコートにある店のようなもので、周囲に似た店舗が並んでいる状況です。仕事を得るためには、同じような店の中で「ここでランチをしよう」と思われる必要があるのです。 他店との違いは、品質だったり価格だったり評判だったりするのでしょうが、外からは判断できないので入口にわかりやすいメニューを置いておく必要が

大事な写真を失わないように:写真の部屋

今日撮影した写真をセレクトした数カットをクライアントに送ろうとしました。5月の後半から断続的に6回の撮影があったのですが、当然その間にも別の仕事の撮影をしています。あまり多くは撮らないタイプの私でもシャッター数は一ヶ月で1万になっていたようです。 そこで何が起きるかと言えば、画像番号が同じものが出てきてしまうんですね。「XXXX0001」から始まった連番が、1万回で1周するからです。セレクトしたカットに以前とまったく同じファイル番号があったので気づきました。5桁あれば10万

三分割構図?:写真の部屋

まずはこの写真を見てください。 誰でも撮りそうな適当な写真ですね。この写真を分解していきます。 バーのテーブルにビールの瓶、手前には灰皿、奥にランプシェードがあります。フォーカスの位置からしておそらくビールが主役だと思いますが、奥にあるランプシェードと重なっていることから、全体をランプに見立てたのでしょう。たいして面白くもない思いつきです。 ビールがアサヒとかサッポロではなく、色が綺麗でちょっとデザインの洒落たものであるというのは悪くないですね。全体の暗い雰囲気や、この

教えたがる人:写真の部屋(無料記事)

こどもの頃、近所のおじさんに教えてもらったことがあとで嘘だとわかったことがありました。からかったり悪意のある嘘ではなく、単純に事実誤認でした。何も知らない自分は大人の言うことを真に受けてそれを自分の知識にしていました。事実を知ったときに「なぜ、嘘を教えたのだ」と憤りを感じましたが、信じた自分も悪かったのです。 それは大人になってからでも起こります。たとえば医師でもない人が医学的な情報を流したりすることは生命の危機にもつながる重大な過失です。しかしそれを信じ込んでしまう人の落

写真家のキッチン:写真の部屋

おととい行ったレストランにはメニューがありませんでした。ひとつのコースだけ。アミューズからデセール、最後のお茶まですべてがシェフの決めたものです。 アラカルトで「これとこれが食べたい」と選ぶ方法とは違って出てくる料理はすべて決まっているので、客はシェフを信頼するしかありません。もちろんどれもこれも素晴らしく美味しかったのですが、食べながら自分が写真を頼まれるときのことを考えていました。 「こう撮ってください」とオーダーされたとき、その内容に納得ができればいいのですが、発注

理想的な設計図:写真の部屋

映画を観るのが好きなのですが、物語に没入することよりも、どう作られたかに興味があります。建築を見るより設計図が見たいという感覚です。 映画監督や俳優、脚本家などを撮る機会がありますが、自分が好きな映画を撮った人と話しながらの撮影はとても貴重で楽しい経験です。すべてにおいて「一次情報」に価値があると思っていますが、写真はその場に行ったり人と会わないと撮れません。又聞きの二次情報だと「複写」になってしまうからです。アイドルを撮るのと、アイドルが写っている駅のポスターを撮ることの

完パケる:Anizine / 写真の部屋

先日あるシーンが頭に浮かんだのでそれをメモしておいたのですが、次々に話が進んでいって、まあまあのプロットになりました。脚本にはほど遠いですが、物語の骨子は見えています。なぜそんなことをしたかと言えば、山形ビエンナーレで「架空の映画の脚本を写真にする」という展示をしたのを思い出したからです。それと近いことができそうだなと感じました。 ポスターやスチールはあるのに映画の本編だけがない、というおかしな展示でしたが、もしかすると、もしかするとですけれど、かなり保険をかけた発言をしま

計器としての眼:写真の部屋

写真を撮る眼は「計器」です。何かを見るときに働く入力装置という意味ですが、その性能や使い方を鍛えることは計器の精度を上げることにつながります。 夕方の広々とした風景、墓地を歩き回る白い犬。 どちらもNew Mexicoで撮ったものですが、こういった風景を見てシャッターを押す気持ちは誰にでもわかると思います。しかしこれらは眼という計器の性能を十分に使っていません。では、次の写真はどうでしょう。

安っぽいレンズ:写真の部屋

重くて大きいレンズはスタジオで使い、ロケに持っていくのは軽くてコンパクトなものです。ですから同じ焦点距離のレンズは必ず2本以上所有しているのですが、あるときとても軽くて安いレンズを買ったとTwitterに書いたことがあります。すると知らない人から「そのレンズ、色収差と歪みで使い物にならないっすよ」とコメントが来た。 今、説明したように仕事で使う機材にはすべて意味があります。状況や仕上がりによって使い分けていますし、もちろんそのレンズに収差と歪みがあることくらいは教えてもらわ

ボケのコントロール:写真の部屋

私はスタジオで撮影するときもあまり絞りすぎないようにしています。これは好みなので正解はありません。スタジオのストロボは最小で使うことが多く、光の回り方も柔らかくしてガチガチには撮りません。 この写真は真ん中のボタンに目が行くように、後ろ側の肩のあたりにはフォーカスが来ていません。奥にいくにしたがってなだらかにアウトフォーカスさせています。 この図は頭のてっぺんから俯瞰したところだと思ってください。正面から見た人の顔は鼻の頭から耳のラインまでだいたい10数センチの奥行きで、

待たせてごめん:写真の部屋・Anizine

昨日は音声メディアコンテンツの収録をしました。あるテーマの6回分を続けて話したのですが、箇条書きにしたものを即興で構築しつつ話すというのは、思ったよりも大変でした。いくつかのキーワードを元に話しながら文章にしているような作業であり、アーカイブ型なのでずっと残ってしまうというプレッシャーもありました。 まず、以前の打ち合わせで仮に決めていた「全体のテーマ」が、ちょっと普通すぎるかなという疑問が生まれ、収録の前に一時間以上悩んでみんなを待たせることになっていまいました。数日前に

そのものズバリ:写真の部屋

仕事でこんなカットを撮った。

手の跡:写真の部屋

これは、スタイリスト高橋靖子さんのコレクションを雑誌で紹介したときに撮影した写真です。そのままだと面白くないので、こんな風にひとつアイデアを加えて撮ってみました。トップの写真だとジャケットの部分しか写っていないので、次の写真を見るとわかると思います。

撮影の常識と非常識:写真の部屋

緊急事態宣言が出ていた時期に、ある医師がウィルスに対するコメントを求められたときの答えに共感しました。彼は「私はそもそも感染症の専門ではないし、さらに新型のウィルスに関する意見を言う立場にない」と言っていました。これなんですよね。たとえ医師という職業であっても自分の専門外のことについては無責任に意見を言わないこと。 写真の話題では、ここが大きな問題になることがあります。趣味で写真を撮り始めた人が駅のポスターを見て「これくらいなら俺でも撮れそう」と言うのを実際に聞いたことがあ