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Anizine

写真家・アートディレクター、ワタナベアニのzine。
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2024年1月の記事一覧

くだらない結論:Anizine

「お前ってさ、いつも遅刻してくるよな」  「ごめん、ごめん」 「ごめんじゃなくて、理由を言えよ」  「どうなんだろうね、そういう風潮」 「どうって」  「遅れてきたことは取り返しがつかないだろう。理由を聞くと何か変わるの。時間が逆戻りするわけじゃないのに」 「割と、自分の立場がわかってねえな」  「いや、それは別問題。今は風潮について話してる」 「納得いく理由があれば赦すこともある、って意味だよ」  「なんだお前、陪審員か。これは陪審員裁判か」

原料も悪:Anizine

先日、ある人が「今日は次女の演奏発表会でした」という投稿をしていました。写真には内容に無関係な植木鉢の写真が添えられています。ここから読み取れることは何でしょう。 ソーシャルメディアに慣れている人、もしくは他人との距離感を間違えない人であれば、その母親は「子どもの習い事の発表会があった事実」だけを言いたかったのだとわかります。 しかし、そこにあきらかに距離センサーの壊れた人々が「エリちゃん、何歳になったんだっけ」「うちの子も聖心の初等科だよ」「今週の金曜日、白金台の『サロ

自然には起こらない:Anizine(無料記事)

「戦争反対」という言葉をシンプルに考えるとき「戦争というのは特殊な状態である」という前提を忘れてはいけません。戦争は賛成か反対かを議論するものではなく、そもそも誰かが強引に始めようとしなければ自然には起こらない現象だからです。戦争は人間の本能だと主張する人がいますが、そんなはずはありません。 その証拠に、私たちのほとんどは一生殺人を犯すことがありません。つまり、これは「殺人反対」を意識し、努力しながら生きているのではないということ。誰かを殺してやろうという極端な精神状態に追

違うね:Anizine

Twitter、Facebook、instagramは、私がフォローしている人しかコメントができない設定にしています。その理由は「コメントを含めて、その人」だと思っているからです。差別的、下品なこと、面白くない冗談といった書き込みをを放置するのは、許容していることを意味します。つまり自分が付き合っている人を含めた全体が「その人」だというのがソーシャルメディアの『自分の畑』です。そのメンテナンスを「雑草を抜く」と表現しています。 たとえば仕事でたまたま知り合った人が友達申請を

くだらない結論:Anizine

「やっと俺が書いた本ができあがったよ」  「ああ、『カメラが撮ってるんだ』っていうやつな」 「全然違う。『カメラは、撮る人を写しているんだ。』だよ」  「まあどうでもいいけど」 https://amazon.co.jp/dp/4478119449/ 「本っていうのは怨念がこもるからいいよな」  「どういうこと」 「なんつーか、簡単に捨てられないカンジってあるじゃん」  「確かに。我々世代は特にな」 「電子書籍には質量がないから怨念がこもらない。データとして捨てられるしね」

ゼロカドの人物:Anizine(無料記事)

「世の中の99.99%の人って、何も成し遂げないままに死ぬじゃん」  「午前中からその始まり方かよ」 「だから、何かがうまくいかないと悩むことなんか無意味だと思う」  「それはわかってるけど、身も蓋もないな」 「それなのになぜか、自分はヒトカドの人物だと思いたがるんだよね」  「ああ、確かにそれはある。中小企業の社長とかな」 「ソーシャルメディアを見ていると、一番面倒くさい発言をするのがそういうおっさんなんだよね」  「わかる。まるでマイクロソフトのCEOみたいな発言をするよ

くだらない結論:Anizine

「なあ、最近悪口の能力が落ちてきていると思わないか」  「確かに。筋力が衰えた」 「だろう。どんな場所でもパワハラとか言われるし、これを言わないほうがいいかなと考える癖がついた」  「それは正しいことなんだけど、昔は『きわどい線』を突いてただろう。ギリの線を」 「そこなんだよ。みんなが品行方正になって安全策をとることは、表現としてまた別のマイナスを生んでるような気がするんだ」  「この前、うちの若い社員が遅刻して来たから『遅れるなよ』って言ったら、そいつが小さい声で『またモラ

更正した囚人:Anizine

よく言われることですが、罪を犯した人が更正すると立派だと褒められます。しかしほとんどの人は罪を犯さずに生きていることを忘れてはいけません。「マイナスがゼロに戻った移動距離」を、ゼロからのプラスと同様に加点してはいけないのです。 そこで言葉の問題です。ここは割とナーバスな問題なので定期購読メンバー限定で。

くだらない結論:Anizine

「なあ、子どもの頃に住んでいた場所って憶えてる?」  「もう行ってもわからないだろうなあ」 「俺もだ」  「行ったことあるの?」 「つい最近、数年間だけ住んでいたところに行ってみた。駅の北口だったか南口だったかさえ思い出せない。何もなかったところにデカいAEONが建っててさ」  「ああ、ありがちだな」 「当時の彼女とよく行っていた喫茶店を探したんだよ」  「へえ。センチメンタルじゃん」 「うん。でもまったく記憶と繋がらないんだ」

ビーチでのロケ:写真の部屋|Anizine

かなり前の夏の話ですが、ある仕事のロケで南の島に行きました。仕事とはいえ、南の島に行くということでスタッフがウキウキしているのがわかりました。現地に夕方に到着して空港の外に出ると、美しいピンクの夕焼けをバックに椰子の木がシルエットで並んでいました。プロデューサーは50代の真面目そうな男性で、ホテルの彼の部屋にスタッフが集まり軽いミーティングをしました。 「リゾート地ではありますが、明日からの撮影はトラブルのないように気を引き締めていきましょう」 と真剣な顔で言います。皆、

銀のエンゼル:Anizine

才能がまったくない私のような人でも、できることがあります。それはサボらずに続けることです。天才的なマスターピースを生み出すことはできなくても、凡才的なモノなら毎日100個は作れます。私はこれを「銀のエンゼル」と呼んでいますが、数が集まれば何とかなると思ってやっています。 何かを作ることには共通点が多く、作曲する音楽家、新しいメニューを開発しているシェフ、だれもがコアの部分では同じ困難に立ち向かっています。だから違うジャンルの人とも話ができるのですが、同じ業界の人であっても自

くだらない結論:Anizine

「なんで勉強しなくちゃいけないのかね」 「バカだと困るだろう」 「困るかなあ。たとえば英語とかはさておき、数学なんか生きていく上でそれほど役に立たないだろう」 「そうじゃねえ。考え方を学ぶ訓練をするんだよ」 「綺麗事ばかり言いやがって。命に関わらないから数学の公式やシェイクスピアが何を書いたかなんてどうでもいいよ」 「自分がそう思うならそれでいいけどね」 銃を持った強盗がやってきた。

この本ができるまで

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令和の福田村:Anizine

ソーシャルメディアがなぜ「ソーシャル」なのかを考えると、ひとりひとりの個人が世界のグルーヴを作り出しているのが、つぶさにわかるからだと思っています。「世界」と言ってしまうと急にプーチンだとかトランプの話だと感じてしまいがちですが、最小の構成要素はひとりひとりの個人であることを忘れがちです。水の分子は海の大きな波になることもあれば、コップの中にも収まります。 元日早々から続けて起きた多くの出来事への反応を見ていると、自然の恐ろしさや、テクノロジーに対する過信の怖さ、災厄への人