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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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#タクシー

東京と中国の寒さ:博士の普通の愛情

タクシーのIDプレートが最近、番号だけのものに変わりつつある。女性ドライバーも増えているからプライバシーに配慮したのだろう。昨日乗ったタクシーはまだ顔写真付きのものだったが、そこに中国人と思われる名前が書かれていた。東京では外国人ドライバーが少しずつ増えているので、話をするのが楽しい。 「中国からいらしたんですか」 「はい、そうです」 「タクシーを始めてどれくらいですか」 「3年くらいです」 これくらい話して、相手の日本語のレベルを探る。それほどうまくない人にはあまり難し

記憶タクシー:博士の普通の愛情

カップルがタクシーに乗り込むと、ドライバーが後部座席に手を伸ばして、CMが流れるモニタのスイッチを切った。 「お客さん、これ嫌いですよね」 「え、どうしてわかるんですか」 「以前お乗せしたとき、すぐに切られていたのをおぼえていたので」 「毎日たくさんの人を乗せているのに、僕のことをおぼえているんですか」 「ケンジってあまり特徴がない平凡な顔なのに。すごいですね」 「どんな言い方だよ」 「まあ、記憶の病気というか、忘れられないんですよ」 ドライバーは過去に乗せた全員の記憶が