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博士の普通の愛情

恋愛に関する、ごく普通の読み物です。
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2022年6月の記事一覧

会話のタイミング:博士の普通の愛情

妻の盗癖に気づいたのは、結婚してから2年ほど経った頃だった。 彼女はごく平凡な僕に似合っていて、どこも変わったところがない人だった。知り合ったときに聞いた音楽の趣味とか、バスケ部に在籍してはいたが一度もレギュラーになったことはないこととか、大きくも小さくもない会社に就職して総務部で働き、30歳で僕と結婚したこと。テレビドラマの主人公の個性を強調するためだけに近くにいる役のように「普通」だった。 ある日曜日の午後、僕ら夫婦は近所のショッピングモールに行った。どうしようもない

ミドリと会う:博士の普通の愛情

「あ、ミドリちゃん。久しぶり」 「ユウくん。久しぶり」 ミドリとは仕事場が近いのだが、会うことは滅多にない。たまたま来たカフェの窓際の席にミドリは座っていた。 「ここに座れば。あの彼女とうまくいってるの」 「まあね。いろいろある」 「お姉さんが聞いてあげようか」 「歳が同じで学年がひとつ上、ってだけだろ」 僕がミドリに最後に会ったのは3年前だったか。彼女と焼き鳥屋に行ったら今日のように先にいたミドリに会った。あの時も「ここに座れば」と言われた気がする。彼女は人見知りで、